赤い鼻と鮮やかな色の衣装で、病院や老人ホームを訪問。金本さんは、利用者さんと触れ合い、笑顔を引き出しています。“ケアリングクラウン”として日本中の、そして世界中の老人ホームを訪問して見えた「良いホーム」とは?
今回は「良い老人ホーム」の真髄に迫ってお話を伺ってみました。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
金本 麻理子(かねもと・まりこ)さん ケアリングクラウン・ケアリングコーチ
東京都港区生まれ。幼稚園教諭を17年務め、訪問介護ヘルパーを経験。2003年11月、アメリカ映画『パッチ・アダムス』のモデルとなったDr.パッチに逢ったことが転機となり、彼と共に世界各国の施設や病院などをクラウンとして訪問。日本でもケアリングクラウンの活動を広めている。
現在「Clown one Japan」というケアリングクラウングループの代表を務め、全国の高齢者施設、病院、児童養護施設、被災地などを訪問。また、ケアリングコーチとして医療・福祉従事者、教育者を中心にサポートしている。その他、美容専門学校、医大生、NPO団体、医療・福祉従事者向けの「ケアリングクラウンの観点から考えるコミュニケーション」の講演会、ワークショップなどを開催。
世界の老人ホームを巡って
――金本さんはDr.パッチ・アダムスと世界各地の老人ホームを巡って来ましたが、それぞれの違いを感じましたか?

世界で活動するクラウンの仲間たち
それはすごく感じます。
モスクワから車で3時間のところにある老人ホームに行ったときには、絶句しました。11月で、気温が-30度だったからという理由だけでなく、とにかくホームの雰囲気が寒々しいのです。
1部屋に3、4人が暮らしているのですが、みんな無言。粗末なパイプのベッド、みんな同じ服……。遠いから家族もめったに来ない環境で、入居者に生きがいはあるのだろうか、と心配に思いました。
そこを離れて、次に訪れたモスクワ市の真ん中にあるケアハウスは、一転して楽し気でした。かつて芸術面で活躍した方が多く、みなさん個性的。お部屋はそれぞれ一部屋ずつで、室内はその人らしく装飾されていました。
私たちが来るというので、女性はお化粧し、男性はスーツに着替えて待っていてくれたんです。同じように高齢者が住む場所でも、こんなに違うのかとびっくりしました。
中国で訪れた老人ホームは、裕福な方が住むようなところだったのでしょうか。やはり一人ひと部屋で、自分の家具を持ち込み、どの部屋もステキなインテリアでした。
私が日本人ということで、入居者が『ほたるの光』をオルガンで弾いてくれて、一緒に合唱をしたり。和やかに過ごせました。
アメリカの田舎を訪れたときも、そのホームの明るさに感激しました。スタッフがとても感じがよく、私たちのことも満面の笑みで迎えてくれました。
お国柄だけではなく、それぞれの老人ホームの個性が反映されているのですね。つつましいホームだからよくなくて、豪華だからいい、というのではありません。
そのホームが考える「良い老人ホームとは何か?」の理念が、そのまま映し出されているのだと思いました。
良い老人ホームは、利用者と介護職の関係がイーブン
――日本ではどのようなホームを「良い老人ホーム」だと思いますか?

金本さんのブログ
利用者さんの顔が穏やかで、ニコニコしているところは、良いホームだと思えるところが多かったですね。
そういうところは、スタッフの声かけが頻繁なんです。仕事をしていても、手を動かしながら利用者さんににこやかに話しかける。だから、利用者さんも反応して、ニコニコするんですね。
利用者さんの表情が乏しいようなホームでは、スタッフもまた無言なんです。すると、どんどん利用者さんは話さなくなり、認知症もすすんでしまう可能性があります。
ホーム側が努力をしていても、利用者さんと気持ちがすれ違っている場合もあります。
ある有料老人ホームを訪問したときには、施設長さんがとてもはりきって私たちに応対してくれたんです。「みんなをホールに集めましょう」と自らおっしゃって。
でも、エレベーターがひとつしかないから、スタッフは大変。すると、施設長さんが、若いスタッフに「早くしなさい!」と怒鳴るんです。
それによく見ると、壁には「虐待はダメ」という張り紙が。そんな張り紙があること自体、何が起こっているのか想像できてしまいますよね。
努力してがんばっていらっしゃるのです。でも、施設長がスタッフに対して支配的で上から目線なんですね。そうすると、スタッフは利用者さんに満足な接し方ができません。それでは、利用者さんは笑顔をみせてくれないですよね。
また、ある有料老人ホームでは、利用者さんを大事にするあまり、「転倒してはいけない」と、利用者さんを歩かせないんです。
事故を起こすわけにはいかない、というのは正しいと思います。でも、多額の入居金を払っている利用者さんだからといって、「お客様」という感覚で接するのはどうなのでしょうか。
スタッフが自分たちを下におき、利用者さんを思い切り上に吊り上げる。一見、利用者さんを大切にしているようにも見えますが、それって、本当の意味で大事にしているわけではないですよね。
Dr.パッチは、いつも「患者さんと医師はイーブンだ」という言い方をしていました。
クラウンは、高齢者や障がい者などの笑顔を引き出すというだけではありません。お互いが持っている力を出し合い、お互いが助けられて笑顔になる。利用者さんと介護スタッフの関係も、そんなふうにイーブンな老人ホームだといいな、と思います。
次回は、ご自身が入りたい老人ホームについて伺います。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
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