東京商工会議所の設立した団体、福祉住環境コーディネーター協会の理事として、セミナーや講演などを行う鴇田さん。老人ホームや在宅介護施設の視察も多く、「介護環境」を広くとらえて、新しい発想のサービスを提案することで定評があります。
かつては東京都の福祉サービス第三者評価者も務め、日本だけではなく、中国などの海外も含めた1000以上の介護施設・老人ホームを視察し、住環境の観点からもホームを見てきました。その斬新な発想で語る「良い老人ホーム」。
新しい時代に向けての老人ホームのあり方を考えさせてくれます。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
鴇田 一夫(ときた・かずお)さん 福祉住環境コーディネーター協会 理事
1959年秋田県秋田市生まれ。早稲田大学法学部卒業、積水化学工業に入社し、高齢者住宅の仕事に関わる。2003年同社退社、2005年に東京商工会議所 福祉住環境コーディネーター協会 アドバイザー、2008年 理事。
中国・台湾とのつながりが深く、現地も含め、国内・海外1000以上の介護施設・老人ホームを視察し、ビジネスにもかかわる。2014年 町田市市民協働事業「まちカフェ」実行委員、コミュニティカフェ 薬膳 Café M’s(エムズ)(町田)店主。
住宅や施設のバリアフリー化相談、職員研修や助成金導入支援など実績多数。
日本とは異なる、中国の介護事情
――鴇田さんは、中国の介護ビジネス支援などもされ、北京や台湾の老人ホームも数々見て来たのですね。まず、中国は日本とどう違いますか?

中国で講演を行う鴇田さん
中国は「介護」ではなく、「介助」という感覚です。「お世話」として介護をとらえ、本人ができることもできないことも助けてしまう印象です。
介護保険もないですし、機器を使ってADL(日常生活動作)を上げると言っていますが、使いこなせていない。個人の判断任せのところが多く、ルールの整備が遅れていますね。
そもそも、中国人は家族を大事にする国民性です。だから、高齢になった親やおばあちゃん、おじいちゃんは、家族の手で介護したいという思いがあります。
しかし、共働きが多いので思い通りの介護をすることができず、老人ホームのお世話になる中国人も多くなってきました。ところが、日本のようには行き届いていません。職員の研修制度も遅れていますね。まあ、制度がないのですから職員は責められませんが。
介護職は多いのです。日本では、「利用者3人に対して介護職が1人」というのが介護付き有料老人ホームの基本的な割合ですが、中国では感覚的には「利用者1人に対して介護職が3人」というほどです。
手すりなどなくても、高齢者が倒れそうになったら、3人の介護職が飛んできますから。それだけを言えば、とても行き届いているように思えるのですが、教育されていないので、介護のしかたがわからない。
そもそも、自分の家族なら介護したいけれど、他人を介護するということになじみがないのです。他人の下の世話をするのなんて「ありえない」と思っている職員もいます。それで介護職をしているというのは、日本では考えられないですね。
また、「勤務は17時に終わる」というのが規則だとすると、利用者さんとおしゃべりをしていても、17時になったら話が途中でも帰ってしまいます。
できればもうちょっと融通きかせてほしいですよね(笑)。
また、車椅子は不吉なものだという認識があり、家に置きたがりません。
日本では、介護が必要になってから、男性は9年、女性は12年生きるというデータがありますが、中国では日本より短いと言われます。なので、長期的なビジネスに発展していないという現状があります。
日本を見習って、介護保険を導入した台湾
――台湾の介護事情はどうでしょうか。

※写真はイメージです
台湾のほうが、日本に近いですね。デイサービスもあるんですよ。介護保険も検討されつつあり、だんだん整備されてきています。
実は中国も台湾もお風呂は湯船が無く、シャワーがついていて、家の中はバリアフリー。玄関もフラットで、車椅子でも生活しやすくなっています。
しかし、社会インフラは悪いですね。歩道が凸凹なんです。店の前にある歩道は、店が勝手に盛り土していたり、隣の店との間に深い溝を作ったり。車椅子もベビーカーもスーツケースも非常に走りにくい。太いタイヤの車椅子を使っても外出するのが大変です。
台湾では、お金のある人は、外国人を雇って家で介護をしています。しかし、ビザの問題もあり、同じ人をずっと雇うこともできず、よい介護が受けられない場合もあります。老人ホームはまだ整備されているとはいえず、これからの部分が多いでしょう。
日本は高齢化社会のモデルですから、日本を見習いながら、中国も台湾も介護事情をよくしていくのでしょうね。
次回は、ご専門である老人ホームの改修について伺います。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
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