高齢者住宅や介護ビジネスのコンサルタントであり、良い老人ホームを見極める著書も数多い濱田孝一さん。ホーム選びのポイントをさまざま挙げてくれますが、中でも注目したいのが、ケアプランについて。老人ホームと契約してしまうと、ご本人もご家族も介護サービス計画書(ケアプラン)のことを、あまり気にしなくなりがちです。しかし、「ホームにいるからこそ、ケアプランの内容は吟味すべき」。では、何に留意したらいのか、実際に伺ってみました。
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○●○ プロフィール ○●○
濱田 孝一(はまだ・こういち)さん 経営コンサルタント
1967年生まれ。立命館大学経済学部卒業後、銀行に入社。以後介護スタッフ、社会福祉法人マネジャーを経て、2002年より主に介護ビジネスや高齢者住宅についての経営コンサルティング、講演、書籍執筆を行う。著書は『失敗しない選び方 家族のための高齢者住宅・老人ホーム基礎講座』(花伝社)ほか多数。社会福祉士、介護支援専門員、宅地建物取引主任者、ファイナンシャルプランナー。
その人らしさを大事にするケアプランなのか?
――ケアプランは、在宅の場合はケアマネジャーさんとよく相談して作成しますが、老人ホームに入居してしまうと、ホームの流れに沿うのであまり重要ではないと思ってしまいがちです。

濱田さんが手がける「高住経ネット」。事業者、介護スタッフ、そしてもちろん、ご家族も参考になるページがもりだくさん
ケアプランは老人ホームに入居しても重要です。同じ要介護3と認定されていても、介護はひとりひとり個別に行われるもの。ケアプランは、それぞれの方の要介護状態や性格、個別ニーズなどに合わせて「どうすれば最も安全、快適にその人らしく生活することができるのか」を示した、介護生活の基礎となるものです。
介護付き有料老人ホームであれ、住宅型有料老人ホームであれ、食事介助や排せつ介助などの最低限必要な介護サービスを当て込み、週2回の入浴サービスを示して、施設の報酬算定やサービスの管理に使うもの、というわけではありません。ケアプランは医師のカルテのようなものではなく、高齢者本人・家族向けに作られる生活支援のための書類だという理解が必要です。
医療の世界でも、「インフォームドコンセント」という医師からの説明が重要視されるようになっています。ただ、医師と患者では病状に対する経験や知識が違いますから、丁寧にその効果やリスクを聞くという視点が中心になります。これに対して、ケアプランは、「どのような生活をするのか」という計画書です。「要介護3」といっても、それぞれの要介護状態や生活の希望は違いますから、それをしっかり伝えることが、ケアプラン策定の基礎になります。「ケアマネジャーさんにお任せ」では、良い介護、希望する生活はできません。
ここで重要になるのが、ケアカンファレンス(ケアプラン作成のための会議)です。本人や家族から聞き取って作成したケアプランは、利用者や家族、関係するスタッフに、ケアマネジャーから説明されます。そして、入居者の介護に関係する全員が集まってケアプランについて情報を共有・検討し、連携や連絡方法についても確認します。入居者や家族は、主体性を持ってケアプランを理解し、それが利用者にふさわしいのかどうかを判断します。作ってきたケアプランに、そのままサインするのがあたりまえなのではありません。原案に要望をプラスして作り直してもらうことも、十分視野に入れてください。
ケアプランを立てたあとも、変更を加えていく

ケアプランができあがるまでの流れ 濱田さんの著書『家族のための高齢者住宅・老人ホーム基礎講座』より
――入居を決めた老人ホームのケアプランが気に入らないのは悲惨ですね。
ケアプランは、「介護生活の計画書」であると同時に、事業者と入居者・家族の間の「介護の契約書」でもあります。入居契約はしたけれど、介護サービスの内容は承諾できないということでは困ります。残念ながらケアマネジャーも玉石混合です。ですから、入居契約の検討段階で、ケアマネジャーからどのようなケアプランをつくっているのか、できれば原案を見せてもらったほうがいいでしょう。そして、論議を重ね、入居の段階で納得のいくプランを作ってもらうべきです。
また、ケアプランは一度策定すれば終わりというものではありません。
特に、老人ホームへの入居は生活環境ががらりと変わりますから、そのケアプランが新しい生活に適しているのか、しっかりと観察することが必要です。「身の回りのことは自分でできる」と本人は思っていたけれど、実際に生活すると勝手も変わり歯磨きや洗身(石鹸などで身体を洗うこと)が不十分ということもあります。このように観察することを、モニタリングと言います。ケアマネジャーも行ってくれますが、家族も一緒にモニタリングし、気が付いたことはケアマネジャーに伝えましょう。
また、「居室の清掃」とケアプランに書いてあっても、「部屋がきれいに掃除されていない」と感じることもあるでしょうし、「介護スタッフの言葉遣いが良くない」といった不満もでてくるでしょう。そういったときも、しっかりケアマネジャーを通じて、相談するようにしましょう。
要介護高齢者の生活は、介護だけでなく看護、食事、相談、住宅改修、福祉用具など様々な専門家が集まって支援をします。ケアマネジャーは、入居者・家族の代わりに専門的な視点から生活を支援してくれるコンダクター(指揮者)のようなものだと言えます。しかし、中には家族・高齢者の支援者ではなく、事業者の利益優先、できるだけ手抜きしたいという劣悪なケアマネジャーもいます。「相談しにくい」「いつも忙しそうで話を聞いてくれない」というのは、ケアマネジャー失格です。
ケアプラン策定も契約ですから、どうしても気に入らない場合、ケアマネジャーを変更してもらうこともできます。老人ホームの施設長などに相談してみるとよいでしょう。ただ、それも大変ですから、入居検討の段階で、担当が信頼に足るケアマネジャーかをしっかりと見極める必要があるのです。
<今回のまとめ>
濱田さんが考える「良いケアプランのある老人ホーム」とは
・入居前に本人や家族から希望や不安などをしっかりと聞き出し、ケアプランに反映させている
・ケアカンファレンスには、担当スタッフだけでなく、必ず本人と家族も参加してもらおうとしている
・プランが施行してからも、本人や家族の要望をもとに、改善を加えていこうとしている
次回は、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅においての留意点についてお伝えします。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
*濱田孝一さんの著書『失敗しない選び方 家族のための高齢者住宅・老人ホーム基礎講座』を、書籍紹介記事で詳しくご紹介しています。
現在老人ホームや高齢者向け住宅を検討中の方は、こちらのページも、ぜひ参考にしてみてください。
●本人と家族にぴったりの老人ホームを探すには→ 老人ホームの「見つけ方・選び方」