母親が老人ホームに入居して2年。月々の家賃やかかる費用が重くのしかかり、いつまでこの支払が続くのか、と思う頃に、運よく特別養護老人ホーム(特養)に入居できました。今回はそのいきさつと、老人ホームに対する秋川さんの思いをお伝えします。
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○●○ プロフィール ○●○
秋川 リサ(あきかわ・りさ)さん モデル・タレント・ビーズ手芸家
1952年、東京都生まれ。68年に資生堂のサマーキャンペーンのCMでモデルデビュー。テイジンの専属モデル、雑誌『anan』の表紙、数々のCMなどでトップモデルとして活躍。以後、テレビドラマ、バラエティ、映画などタレントとしても活動。2001年にビーズアート教室を開設し、全国各地でビーズ刺繍の普及をする。著書に『秋川リサの子育てはいつだって現在進行形』(鎌倉書房)、『秋川リサのビーズワーク』(日本ヴォーグ社)、そして母親の介護をつづった『母の日記』(NOVA出版)など。
特養の入居には情報収集が大事
――初めに入居した老人ホームから、入居待ちが長いといわれる特養にうつれるようになったのは、どんないきさつですか?
母が老人ホームに入る前から、在宅時代のケアマネジャーさんのすすめで、特養には申し込んでいたんです。在宅での最後のほうは要介護3でしたから。特養は、要介護3以上でないとなかなか入れないと言われていたので、3になった時すぐに申し込んだというのが最初のきっかけです。しかし、家の近くの特養には要介護3でも入れず、何百人待ち、という状態でした。
しかも、入居していた老人ホームでの生活が合っていたのか、そこで生活するうちにみるみる元気になっていって。食事もモリモリ食べて太り、洋服が合わなくなるほどでした。認定調査で要介護3から2になり、喜ばしいことだけれど、ますます特養は遠のいた、と思っていたところでした。
うちの母はそのホームがお気に入りだし、実際なかなかいいホームでしたが、ひとつ心配だったのは、担当するケアマネジャーさんが次々に退職することでした。職員にとっては働きにくい環境なのかしら……。何度目かの退職のご挨拶と打ち合わせのときに、ケアマネジャーさんに聞いたら、どうも、現場と上層部の考え方が違う、というようなことでした。そのときに、「ずっと特養を申し込んでいるけれど入れない」という話をしたんですよ。そうしたらまわりまわって伝わったのでしょうか。後日、ひょんなことから、これからオープンするという特養があるとわかったのです。
そこに連絡してみたところ、交通の便が悪いせいか、なかなか入居者さんが集まらないらしくて。要介護2になってしまったうちの母でも大丈夫だと思う、ということでした。
グループホームだと、住んでいる地域でしか入れない。それでしかたなく、他の老人ホームに入るしかない、と思っていたのですが。特養なら、どの都道府県でも自治体を超えて入れるということです。そうなのか、とびっくりしました。
そして、新しくできた特養の方と面接や打ち合わせをして、入居できることに。心底ほっとしましたね。これで、経済的にもだいぶ楽になりました。やはり、老人ホーム選びには、情報って大事だな、と思いました。自分で調べて知識をつけておくことや、人とのつながりを持つことが、いい条件を得ることにつながるのだな、と思いました。
在宅にこだわらず、プロの介護の良さに注目したい

秋川さんご一家。お母様と子どもたちと
よく、「家で最期までみることが、一番いい介護」という人がいます。けれど、私はそうは思いません。母のように無銭飲食や通販などでの買い物が頻繁な人は、家に置いておくと大変です。ひとりで行動できるのは喜ばしいことだけれど、行動すれば、その分トラブルが多くなります。帰り道がわからなくなり、警察のお世話になることが何度もありました。かといって、家族が24時間見張っているわけにもいきません。
私の場合、20歳を過ぎた娘が同居していました。彼女がとてもしっかりしていて、介護をいやがらなかった。ふたりで介護をしていたから心強かったし、息抜きにふたりで飲みに行くこともできました。けれど、多くの場合は、家族のだれかが主にひとりで介護を担います。それは本当につらいし、孤独です。そして、その「ひとり」というのは、多くの場合、女性です。「介護離職」という言葉もありますが、それも女性が多いのではないでしょうか。
よくがんばったうちの娘でさえ、「あと半年、おばあちゃんが家にいたら、私は家を出ていたかもしれない」と言っているのです。在宅介護の限界ってあると思います。プロの方の手で世話をしてもらえば、母のように、要介護度が下がって元気になるケースもあるんです。老人ホームへの入居は、とてもすばらしいことだと思っています。
母が入居した特養は、家からだいぶ離れていました。それでも仕事の合間を縫って、月に1度ぐらいは母に会いに行きましたね。行くときは、やはり子どもたちと一緒のことが多かったです。そのほうが、母が喜びます。それに、道中が長いから、電車の中で子どもたちと話すことができる。日頃、成人した子どもたちとなかなかきちんと話ができないからこそ、この時間は貴重でした。帰り道にスーパー銭湯があるので、そこに行くのも、家族の楽しみになっていました。ちょっと遠くても、こんなふうに、「行くメリット」を自分たちなりに見つければ、老人ホームへ面会に行くのも楽しくなりますよね。
<今回のまとめ>
秋川さんが考える「良い老人ホーム選び」とは
・介護や老人ホームの知識をつけ、人のつながりを大事にして情報を得る
・家の近くにこだわりすぎず、いい条件の老人ホームを探す
・老人ホームへの面会に、“ついで”の楽しみを見つけられるところならなおよい
最終回の次回は、老人ホームで働くようになった秋川さんの現在の心境についてお話していただきます。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
*秋川リサさんの著書『母の日記』を、書籍紹介記事で詳しくご紹介しています。
現在老人ホームや高齢者向け住宅を検討中の方は、こちらのページも、ぜひ参考にしてみてください。
●本人と家族にぴったりの老人ホームを探すには→ 老人ホームの「見つけ方・選び方」
