老人ホーム入居のきっかけは? 入居者はどんな日常を送っているの? 入居者同士やスタッフ、家族との人間関係は? 外からはなかなか見えにくい、老人ホームにまつわる人間ドラマをお伝えします!
今回紹介するのは、「老人ホーム内のご近所付き合い」です。
息子夫婦が還暦を迎え、母親は老人ホームへ
改めて言うまでもありませんが、老人ホームは集団生活。“ご近所さん”と上手に過ごせれば、生活に新たな張りが生まれます。
しかし中には、それまで周囲と上手に交友関係を築いていても、老人ホームでの人間関係がうまくいかない場合もあるようです。
Sさんは夫に早く先立たれ、長らく息子夫婦と暮らしていた現在90代の女性。Sさんが元気だった頃は親子の同居生活は順調でした。
しかし、Sさんの足腰が徐々に弱るのと前後して、息子夫婦も還暦を迎え、母親の介護をするのは体力的にも困難に。
どうしようかとあれこれ悩みましたが、親子で話し合った結果、Sさんは介護付き有料老人ホームに入居しました。
Sさんは物腰も大変穏やかで、「おばあさま」という呼び方がピッタリの上品なご婦人。
息子夫婦が暮らす家からの距離や入居費用などで施設を決めたSさん一家でしたが、老人ホームでは厳しい現実が待ち受けていました。
物腰穏やかな“おばあさま”がなぜ孤立することに?
入居前のSさんは、趣味のお花やお茶などを通じて交友関係も広かったタイプ。
家族も、そしてSさん自身も、周りの入居者との付き合いにはこれっぽっちも不安を感じていませんでした。
しかし息子夫婦がSさんのもとを訪ねると、いまひとつ元気が無い様子。どうやらSさんは、施設内で親しく話す入居者が一人もいないのでした。
事情を知る孫のHさんはこう語ります。
「ウチの祖母は裕福な家で育ちで、その年代としては珍しく女学校も出ています。
そしてある時、他の入居者とおしゃべりをしている時に『女学校時代の友達が……』とポロっと漏らしたことで、周りが引いてしまったみたいなんですよね。
祖母の中では、自分が女学校を出たこと、家にお手伝いさんがいたこと、息子や孫が全員大学を出ていることなどは、すべて“当たり前のこと”だったんですが、一般的には、それは“普通”じゃないんですよね。
要するに祖母は、人生において“そういうのが当たり前の人たち”しか周りにいなかった人。それが普通でないということ自体を、わかっていないんです。
だから祖母はそれを隠すつもりもなかった。そうしたら周りの方から『Sさんは我々とはちょっと違う方だから……』と、一線を引かれてしまったんです」
Sさんの家族は、「90代にもなって、今さら『まわりに合わせなさい』という気もないし、できないでしょう」となかば諦め、「こんなことになるのなら、もう少し無理をしてでも自宅で暮らすという選択肢もあったのかも……」という後悔も頭をよぎったそう。
しかし、それから数カ月もすると、Sさんのおっとりと優しい性格が幸いしたようで、施設の中でも徐々に会話を楽しめる入居者が増えてきたとのこと。現在では楽しく暮らすことができているようです。
親の入居を考える際には、「人生最後のご近所付き合いを上手にできるのか?」という点も、考慮に入れる必要はありそうです。
施設への入居は、新たな交友関係のスタート。どんな人が入居しているのかなど、事前に老人ホームに問い合わせたり、体験入居で他の入居者と積極的に会話してみるといいですね。そして、本人も納得した上で入居先を決定しましょう。
●本人と家族にぴったりの老人ホームを探すには
→ 良い老人ホームの「見つけ方・選び方」
