介護現場で働く人やホームの管理者から、ホームの利用者や家族にまで、さまざまな研修などの機会を通じて情報提供を行い、よりよい介護環境づくりに貢献している高室さん。数多い著書・監修書も専門職から一般の方までわかりやすいと評判です。
そんな高室さんが、利用者の家族の方に向けて、具体的に語ってくれる「良い老人ホーム」の条件。2回目の今回は、建物や居室について、語っていただきます。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
高室 成幸(たかむろ・しげゆき)さん ケアタウン総合研究所代表
1958年京都府生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒。講演やセミナーの対象はケアマネジャーから地域包括支援センター職員、老人ホームの管理者、民生委員まで幅広い層。むずかしいことをわかりやすく伝える講師として高く評価されている。著書・監修書多数。雑誌の連載も多い。主な人気の監修書に『もう限界!!』シリーズ(自由国民社)がある。施設向けのコンサルティングを行う日本ケアサポートセンターの理事長でもある。
老人ホームの「場所」にも選択肢が
――老人ホームを探すときには、ご本人の住まいに近いほうがいいのでしょうか? それとも、家族の家に近いほうがいいですか?

高室さんが代表を務めるケアタウン総合研究所のHP
基本的には、家族が通いやすいところがいいですね。交通のアクセスが悪い、移動に時間がかかるなどの通いにくいところだと、ついつい足が遠のいてしまいます。ホームには年間を通じて恒例の行事があります。クリスマスやお祭りなどになかなか家族が顔を出せないと、利用者であるご本人は寂しい思いをすることになるからです。
ただ、ご本人の育った土地からかなり離れていると「方言が違うケース」がありますね。私は京都の生まれです。現在は東京にいますから、標準語に近い言葉遣いで話しますが、年をとったら、やはり関西弁が落ち着くでしょうね。それに好みの味や食べ方も土地柄は影響します。そんなところにも目を向けて、老人ホームを選ぶといいでしょうね。
ただ、発想を変えて、ホームに行くこと自体が「家族のイベント」と思える土地を選ぶというのもあっていいのでは。たとえば東京都杉並区は、静岡県南伊豆町などと共同で、区民が入所できる特別養護老人ホームを南伊豆町に整備しています。杉並区は「1800人」といわれる、特養の待機高齢者を減らせるし、南伊豆町は雇用創出が期待できる。双方にとってよい、ということで始めたケースです。
東京から伊豆までは遠い、という考え方もありますが、「おばあちゃんに会うために伊豆に行く、ついでに温泉に入ってくる」などと考えれば、ホームへの訪問も楽しくなります。「義務」で訪問するのではなく、自分なりの楽しみを見つけ、その気分で親に会いに行くというのもひとつのモチベーションになるでしょう。
カーテンぐらい好きなものをかけて
――利用者さんにとって、居室は生活の拠点です。居室のよさを見極めるコツはありますか?
最近の老人ホームは、設計もよくなってきて、ハード面で、首をかしげるようなところは少なくなりました。
しかし、私が老人ホーム選びのポイントにするのは、「本人らしさが実現できているか」。居室は暮らす人の個性がにじみ出るものです。マンションの部屋の作りは同じですが、飾りつけや家具の配置はみなさん個性あふれています。それなのに、老人ホームの部屋を覗くと、介護ベッドと添えつけのタンスにテレビがあるだけで、どこかガランとしています。壁には家族写真が数枚ある程度です。無個性で同じような雰囲気の部屋が並んでいるところという印象が強いですね。
「好みのカーテンをつけたい」と希望しても、「カーテンは備え付けのものをお使いください」というホームがあります。バラバラだと外からの見栄えが悪いからだそうです。しかし、インテリアの中でカーテンの存在は大きく、自分の好みを反映させたいものではないでしょうか? それを認めてくれるところは「本人らしさ」を大事にする「良い老人ホーム」だと感じます。実際にOKしているホームもあります。
洋服ダンスも備え付けのものが多いですが、その方の衣類によっては入りきらない場合もありますし、なにより「家具の好み」もあるはずです。これも自由にできるところがいいのではないでしょうか。
そもそも、有料老人ホームは、高い入居一時金を払うのが一般的です。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だって退去時の修復費用などを前提とした「敷金」は払います。ならば、自分の好きなインテリアを楽しみたいところです。壁紙は好きなものを貼る。退去するときには剥がして、次の入居者の好みのものに貼り替える。どのみち、壁紙は汚れやにおいが付きやすいので退去した後は張り替えるべきもの。それならばご本人の好みのものにできたら良いですよね。費用がかかっても、それほど高いわけではありませんしね。
もっと言ってしまえば「和室仕様」にしたっていい。ご自宅が和室なら本人にはそのほうが落ち着く場合も多いでしょう。小さな仏壇を置いて、ご主人の遺影を飾る。亡くなったご主人を大事にしている方なら、そうしたいはずです。本人らしさをとことん追求できる居室にしてほしいですね。
むしろ、認知症型グループホームなどでは積極的に取り組んでもらいたいですね。自分の部屋だとわかりやすくすることは、ご本人の世界を再現するという意味です。つまりは、部屋に個性を出すということです。これは認知症ケアの点からもよいと思います。なじみのものを置くことで心が落ち着きますからね。
これからは有料老人ホームにも認知症の方は多く入居されます。この発想を積極的に取り入れるのもいいのではないでしょうか。
<今回のまとめ>
高室さんが考えるハード面での「良い老人ホーム」とは
・家族が訪ねやすいよう、家族の住まいに近いところを選ぶといい
・家族が訪ねていくことが楽しくなるようなエリアにあってもいい
・居室は「本人らしさ」がにじむ、利用者の個性やこだわりや好みが出せるといい
次回は、「良い老人ホーム」をソフトの面から具体的に語っていただきます。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
*高室成幸さんの監修本『もう限界!! 介護費用を「1円でも安くしたい」ときに読む本』を、オアシスナビ書籍紹介記事で詳しくご紹介しています。
老人ホームを検討される方は・・・【初めての老人ホーム探しガイド】
現在老人ホームや高齢者向け住宅を検討中の方は、こちらのページも、ぜひ参考にしてみてください。
●本人と家族にぴったりの老人ホームを探すには→ 老人ホームの「見つけ方・選び方」





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