女優の仕事をしながら、小規模多機能型居宅介護のデイサービスの部門で、介護職として働き始めた北原佐和子さん。そこで働き続ける中で、見出したのは、「声のかけかたひとつで、利用者さんの気持ちに変化が起きる」ということ。また、その「声かけ」の根本には、北原さんの介護に対する信念が見えます。2回目のインタビューでは、実際の介護のヒントが満載です。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
北原 佐和子(きたはら・さわこ)さん 女優・介護福祉士
埼玉県出身。高校在学中に「ミス・ヤングジャンプ」に選ばれ、芸能界へ。80年代のトップアイドルとして活躍した後、映画、ドラマ、舞台に活動の場を広げる。2007年にホームヘルパー2級の資格を取得し、介護の仕事を始める。現在も芸能活動を続けながら、介護福祉士として現場で働き続ける。介護関連の講演活動にも精力的。また、「プレシャスライフ心の朗読会」代表として、学校等でいのちと心の朗読会を行っている。
高齢者の「いや!」の気持ちに寄り添うことから始める
――利用者さんに親近感を覚えてから、実際に北原さんの介護職としての仕事はどう変わったのでしょうか?

介護グッズを作成中の北原さん
掃除一辺倒から、実際に利用者さんと接する仕事になり、最初は戸惑いもありました。でも、その戸惑いは、利用者さんとのコミュニケーションがうまくできていないからだな、と思ったんです。
たとえば、トイレや入浴を拒む方がいらっしゃいます。1日デイサービスにいるのだから、入浴をしていただきたいし、トイレだって、何回かはしていただきたい。でも、ただ「そろそろトイレに行きましょう」では、行ってはくださらない。入浴をただ促しても、「家でお風呂に入るからいいわ」と言われてしまうんです。
利用者さんの中には、こういう場面で、大きな声で怒鳴る方もいらっしゃいます。何か声をかければ「うるせぇ!」「ばかやろう!」と言って、コブシをふりまわす方がいらっしゃいました。そうなると、ほかの利用者さんが不安になりますよね。職員も周囲の利用者さんも「困った人だ」ととらえてしまいがち。ですが、「また怒鳴っている」とか「困った」というふうに捉えないことが大事だと思います。
だって、自分だったらどうだろう。トイレなんて、人に言われて行くものじゃないですし。自分が行きたいタイミングで行きますよね。お風呂に関しては、私は大勢で入るのは、すごく苦手です。温泉も風呂屋さんも行きたくないぐらい。まして、一緒に入るスタッフは服を着ているわけでしょう? 自分だったら、いやですよ(笑)。自分がいやなのですから、利用者さんがいやだと思うのはおかしなことではないですよね。ですからいやだと言われたら「気持ちわかります、いやですよね。自分の家のお風呂の方がいいですよね」とまずは寄り添うことにしています。
また、自分ならやってもいいな、ということでも、その利用者さんにとっては「いや!」なこともありますよね。だから、「行きたくない」「それは困る」じゃなくて、「行きたくない」「そうですよね、行きたくないですよね」って、一度受け止めるっていうことだと思うんです。介護職側の都合で考えない。利用者さんの気持ちに寄り添うことだと思います。
そこが、介護の基本だと思うのです。「利用者さんに寄り添う」ことができているかどうか、いつも自分に問い直さないといけないなって思います。
「忘れてくださる力」も借りて何度も声かけを
――「寄り添う」ことを基本として、実際にトイレや入浴に行ってもらうにはどうしたらいいのでしょうか?

介護のヒントになる声かけ例がたくさん。北原さんの著書『女優が実践した 介護が変わる魔法の声かけ』より<クリックして拡大>
それはもう、声かけをあの手この手で工夫します(笑)。例えば、何時間もおトイレに行って下さらない利用者さんの場合は、2メートルぐらい離れたところから、「●●さん、●●さん」って、手招きをしてみました。人って、手招きされると、腰がフッと少し浮くんですよね。「俺?」って言うので、「そうなんです、●●さん、ちょっとお手伝いしていただけませんか? 女の私では物が動かせなくて。●●さんの力をどうしてもお借りしたいんです、お願いします」って。
人はこんなふうにお願いされたら、「しょうがないな、やってやるか」って思ってくれたりします。それで、一緒に廊下を歩き始めたら、「あれ、こんなところにトイレがありますね、ついでだから寄って行っちゃいますか?」って。こんなことで行ってくださるかしら、と心配になりますが、案外すんなりと行ってくださることが多いです。
また、かつてピアノの先生だったという利用者さんで、なかなか入浴してくださらない方がいらっしゃいました。でも、音楽はお好きで、お好みの音楽がかかると、楽しそうにされています。それで、お好きな音楽をかけながら、私もリズムをとって、手を差し出します。すると、手を握ってくださる。椅子から立ち上がるように促して、いっしょに歩いて、お風呂場までお連れしたこともあります。
――そういう手法は、すべてご自分で考えるのですか?
自分で考えたり、ほかの方に教えてもらったり。スタッフはみんなそれぞれ、自分なりの声かけの方法を持っていましたね。また、ミーティングでみんなで考えて知恵を絞ることもありました。
今紹介したような声かけも、昨日はOKだったけれど、今日はだめってこともありますし、今はだめだけれど、あとでもう一回お声がけしたらOK、ということもあります。だから、いちいち落ち込んだりしないで、根気よく回数を重ねることが大切ですね。何度も同じことをお伝えするわけですけれど、利用者さんによっては「忘れてくださる力」をお借りして、繰り返し対応しています(笑)。
<今回のまとめ>
北原さんが考える「いい声かけができる介護職員」とは
・利用者の気持ちに寄り添うことが基本
・利用者の気持ちが切り替わるような声かけや行動を自分なりにいくつも考える
・利用者の「忘れてくださる力」も借り、ひるまず何度も声をかける
次回は、北原さんの女優業と介護職とのすみわけや相乗効果について伺います。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
*北原佐和子さんの著書『女優が実践した 介護が変わる魔法の声かけ』を、オアシスナビ書籍紹介記事で詳しくご紹介しています。
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