介護業界は「いいケアをする」ことを中心に考え、利益を上げることを二の次にしてしまうことが多いようです。利用者を無視して利益ばかり追いかけるのは問題。しかし、経営が成り立たずに安定した運営ができなくなるなら、それも問題です。糠谷和弘さんは、介護専門の経営コンサルタントとして、「良い老人ホーム」を1軒でも増やそうと考えています。
では、経営の視点から見て、「良い老人ホーム」とはどんなホームなのか。そして、よいホームは地域に、利用者に、そして働くスタッフにどんな素晴らしいことを提供できるのか。4回にわたって伺いました。論理的でわかりやすい糠谷さんのお話は、ホーム選びの重要なポイントになります。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
糠谷和弘(ぬかや・かずひろ)さん 経営コンサルタント
(株)スターコンサルティンググループ代表取締役。1971年生まれ。大学卒業後、旅行会社を経てコンサルティング会社・船井総合研究所に入社。介護サービスに特化したチームを立ち上げ、11年間経営指導を重ねた後、チームで独立。介護事業所の立ち上げから組織マネジメントシステムまで、幅広いコンサルティング事業を展開している。コンサルティングしてきた法人は400社を超え、講演も年間50本以上。マスコミに登場することも多い。著書は『ディズニー流! みんなを幸せにする「最高のスタッフ」の育て方』『あの介護施設はなぜ地域一番人気になったのか!!』(いずれもPHP研究所刊)など。
健全な経営が「利用者さん本位」につながる
――介護事業者への経営コンサルティングを通算400法人もされていますね。介護業界には経営を変革する必要性が、それだけ多くあるということでしょうか?
はい、そういう危機感をお持ちの事業者さんが多いということだと思います。
かつて介護事業者がそれほど多くなかった時期は、地域に根差し、ご自分たちなりに一生懸命に事業を展開していれば、なんとかやってこられたのだと思います。
しかし、2000年に介護保険制度が導入され、介護事業が社会的にも重要視されるようになると、参入する企業が多くなりました。また、介護保険制度も3年ごとに大きく変わり、最近では介護報酬も下げられました。こうなると、これまでの経営に安住せず、何か改善しないといけない。人手不足が深刻になり、人材育成の面でも見直しが必要…介護業界には課題が山積しているのだと思います。
介護事業者は、そもそも「儲けよう」と思っているところ自体が少ないんです。特に、社会福祉法人などは、公益法人ですから、地域に根差した運営をすることが第一義と考えています。最近は内部留保(内部に蓄積され保留された利益)などについて、社会的な厳しい視線もあります。どうしても利益を上げることに消極的になりがちです。
しかし、たとえ社会福祉法人だとしても法人ですから、利益を上げないといけないし、人材も育成しないといけない。放っておけば、収益が微減していくところが多い現状を見つめ、自らを改革していくことが、必要だと思いますね。経営難になったら、結局大事な利用者さんを路頭に迷わせることになります。そうならないためのお手伝いを、私どもがさせていただいています。
他業種から介護業界が学ぶこととは
――とはいえ「介護事業は、頑張ってもそれほど利益を上げることはできない」という見方があります。そんな中で、コンサルティング料を支払い、その上で利益を上げられる法人はあるのでしょうか(笑)?
私は、以前は、船井総研というコンサルティング企業に在籍していました。その時に、前述したような介護業界の実態を知りました。これは経営改革の余地があると思い、自ら会社に提案して、介護業界のコンサルティングを11年ほど続けたのです。のちに、当時の介護のチームで独立し、現在のスターコンサルティンググループを立ち上げました。
こうして船井総研時代から数えて15年以上、介護業界のコンサルティングを私が続けられていること自体、「需要があるか?」の答えになっているわけですよね(笑)。
介護業界の方々は、目の前の利用者により良いサービスをすることに時間をかけます。また、記録やカンファレンスなどの日々の業務に追われています。そのために、新たな展開を計画したり、稼働率を上げ、収益性を向上させるための取り組みが、後回しになってしまうのだと思います。
そこを改善していけば収益面でも改善されていく、ということをご理解いただいている事業者さんもたくさんいますし、実際に大きく改善されているところも多々あります。
介護業界は、介護という専門技術を磨きながら、サービス面でも、利用者さんに満足してもらう必要がある。やらなくてはいけないことが細かく決まっている介護保険事業に携わりながら、介護保険を超えた事業やサービスも追及してかなければならない。さらに世間からの期待も高い。
「介護のプロ」として生きていきたい事業者さんにとっては、あれもこれもやることがあり、スムーズに「回っていない」という実感がおありなのだろうと思います。
多忙な事業者さんがそこを整理し、今やるべきことに力を注ぐには、経営コンサルティングという第3者の目があったほうがいい、私はそう考えています。

ディズニーランドでのアルバイト時代に学んだ “最高の”スタッフを育成するためのノウハウが詰まった1冊。
介護事業者の中には、よく、「私たちがやっているのは福祉事業。福祉は特殊だから」とおっしゃる方がいます。が、その特殊性を意識しすぎない方が、いいサービスができるかもしれない。
たとえば、老人ホームの食事だったら、いい飲食店を見習うとか。介護施設は機能回復などの目的もあるわけですが、長期滞在するということを考えれば、リゾートマンションやホテルなどのホスピタリティもヒントにできる。飲食店やホテルなど、介護業界以外の専門的な事業者さんからヒントをうまく得て、福祉の業界での特殊性を壊してなじませるということをする必要があると、私は思っています。
――糠谷さんの著書には『ディズニー流! みんなを幸せにする「最高のスタッフ」の育て方』がありますね。これは、ディズニーランドに人材育成をならう、ということでしょうか。
そうです。私は学生時代、ディズニーランドでアルバイトをしていましたが、その時に人材の育て方のすばらしさを痛感しています。すばらしい経営をしている企業の経営のしかた、サービスのしかたをどう生かすか。
「他業種から学ぶ」姿勢を持つことが、経営改善につながると思っているのです。
<今回のまとめ>
糠谷さんが考える「良い介護業界の経営」とは
・変化の多い介護業界で、柔軟にその変化の波に乗っていけること
・多忙な中でも、経営改善の視点を常に持つこと
・経営的にもサービスの面でも素晴らしい他業種に学ぶこと
第2回の次回は、具体的な改善方法について伺います。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
*糠谷和弘さんの著書『あの介護施設はなぜ、地域一番人気になったのか!!』は、オアシスナビ書籍紹介記事で詳しくご紹介しています。
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現在老人ホームや高齢者向け住宅を検討中の方は、こちらのページも、ぜひ参考にしてみてください。
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