看護師として、ケアマネジャーとして老人ホームに勤務し、ハンドセラピストとしても、さまざまなホームを訪問して施術をしてきた山本千鶴子さん。利用者にとって「良いホーム」とは、と伺うと、「何よりも人」との回答。その理由について、今回は詳しくうかがってみました。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
山本千鶴子(やまもと・ちづこ)さん 幸(高)齡者ハンドセラピスト
看護専門学校卒業後、病院の神経内科で看護師として5年務め、結婚。ご主人の転勤に伴って静岡県に移り、訪問看護師に。訪問看護のおもしろさを知り、第一子出産後に介護支援専門員の資格を取得。第二子出産と育児を考え、その後は有料老人ホームの看護師として働く。が、高齢者と日々接する中、高齢者に正面から向き合って触れたいと考え、ハンドマッサージを学び、独立。ハンドセラピストとなる。自ら老人ホームに赴き施術するほか、ハンドマッサージの教室を主宰し、後進の指導にも務める。訪問したホームは30軒近く。
幸(高)齢者ハンドセラピスト~ハンドケアはハートケア~
いいと思うのは、ご利用者さんが自分のお話をたくさんしてくれるホーム

山本さんは、現在はハンドセラピストとして数多くの老人ホームを訪問している
――ズバリ伺うのですが、山本さんの経験の中で感じる、「良い老人ホーム」とは、どんなホームでしょうか?
うーん、そうですね……、建物など、ハード面では決められないというのはありますね。建物の新しい古いはほとんど関係ないと思います。たしかに新しい建物は、スタッフや利用者さんの動線が改善されていて、周囲の状況を把握しやすいところが多いです。スタッフにとっては、楽な面もありますね。でも、ご利用者さんから見れば、きれいすぎちゃう内装や、多機能すぎる設備だと、どうしたらいいか戸惑うことが多いようです。
そもそもホームに移ってきた時点で、自分の家とはぜんぜん違う環境になっています。そしてそこは、多くの場合、「しかたなく入ってきた」という状況です。どう生活したらいいかのイメージができていないのに、さらにどう使っていかわからない環境だとつらい。むしろ、古民家みたいな建物のほうが、ほっとする空間かもしれませんね。
――では、「良い老人ホーム」の要素として大事なのはソフト面ですか?
そうですね。いいなって思うのは、ご利用者さんが自分のお話をたくさんしてくれるところですね。認知症や脳に障害があって、言葉が出にくくなっている方もいますけれど、そんな方でも、ご自分の言葉で一生懸命に話してくれるようなところは、いいです。だって、聞いてくれる人がいると思っているから、話すわけでしょう? スタッフが忙しそうに動いていて聞く耳をもっていなそうに見えたら、話せませんからね。
また、ご利用者さんを名前で呼んでくれるところはいいですし、ご利用者さんがスタッフの名前を覚えやすいように、ご利用者さんの目線で見える位置に名札などをつけているところはいいな、と思いますね。お互いに名前がわかるほうが、安心できます。
同じ会話でも、不愉快なのは、介護するご当人がいる前で、スタッフだけが話していること。「ねえ、散歩はだれが連れて行くの?」「私、無理。ほかの仕事あるし」みたいな会話は、散歩に連れていく当人に聴かせるべき内容じゃないですよね? 当人を無視するような会話を延々聞かされるご利用者さんの身になってほしい。私なら、耐えられません。
要するに、決め手は「人」ですよね。利用者さんのことをきちんと考えているスタッフの多いホーム。そして、いいな、と思うホームは、あまり人が退職せず、長続きしているように思います。
――介護業界はどこも人の出入りが多いといいますよね?
人間関係が難しくて辞める方もいますし、中には「もっとほかで学んでみたいから」という意欲的な動機で辞める方もいます。特に若い世代のスタッフは、出入りが激しいかもしれません。でも。フロアリーダーのような方がどんどん辞めてしまうようだと、フロアの雰囲気が不安定になり、過ごしにくくなります。リーダー格の人はあまり変わらないところが望ましいですね。
――パンフレットに書いてある理念に惹かれて入居を決めるご家族も多いと思います。
「理念」って、現実化しにくい部分もありますよね。現場に浸透していない場合もある。事業体としての理念も大切ですが、まず、それぞれのホームの雰囲気や考え方のほうが、ご利用者さんにとっては身近だし、影響が大きいと思います。 事業体のトップの考えより、ホームの施設長さんやフロアのリーダーの熱意。また、パンフレットだけで決めないで、きちんとそのホームを見て、雰囲気を感じて入居を決めてほしいですね。
――お泊まり体験(体験入居)ができるホームは、事前のお泊まりはしたほうがいいですか?
はい、ぜひお泊まり体験はしてほしいと思います。できれば、ご本人だけでなく、できるだけご家族も一緒に泊まって、そのホームがどんな雰囲気なのか、実感してほしいです。また、ほかのご利用者さんに声をかけて話してみて、入居するご当人と相性がいい人がいそうかどうか、チェックすることも大事ですよ。
私の好きな特養のホームがあるのですが、そこは、建物自体は暗くて古くて、ユニット式ではなく、プライベート空間はあまりないところです。でも、とっても雰囲気がよく、しかもご利用者さんのADL(歩行や排泄など、日常生活動作能力)が下がらないんです。刺激が多いからでしょうか?
「さあ、みなさんでお食事に行きましょう!」みたいなスタッフの声がけもとても明るくて、イベントも多くて。ご利用者さんも楽しそうなんですよ。
逆に、個人を大事にする有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅だと、お部屋にこもりがちで、歩行の機会も少なく、刺激も少ないのでADLが落ちやすい、ということもあります。
高齢者にとって、スタッフの声かけによる刺激はとても大切です。レクリエーションなども、「内容を消化する」ことを主眼にするのではなく、レクリエーションを通してコミュニケーションをすることを主眼にするようなホームがいいですね。特に男性の利用者さんは無口になりがちなので、同じような年齢の男性利用者さんを探して、「あの方、お年が近いですよ」とか「同郷のようですよ」というふうに声をかけて、お友達作りを促すとか。ひとりでもふたりでも、そういうスタッフがいるところをすすめたいですね。
<今回のまとめ>
山本さんが考える「良い老人ホーム」とは
・利用者が安心して自分のことを語れるところ
・リーダー格以上のスタッフの変動や異動があまりないところ
・スタッフがよく声をかけ、個別性を理解したうえで友達作りやレクへの参加意識を促すようなところ
第3回の次回は、ホームでのコミュニケーションと看取りについて伺います。
*このインタビューの1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
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