認知症の方が入居可能なホームや、認知症の方が暮らしやすい様々な取組をしているホームはたくさんあります。ここでは、施設スタッフが語る『認知症の入居者さんとの、心に残るエピソード』をご紹介します。
vol.1 ケアマネージャー 松本 陽子さん

センチュリーハウス玉川上水
東京都東大和市
サービス付き高齢者向け住宅
いつもにこにこと素敵な笑顔を見せてくださるMさん。約1ヶ月前にご入居された当初とはすっかりお顔つきが変わっています。
Mさんはご入居前はお一人暮らしで、ご家族が週1回訪ねていたそうです。ところが、ある時点から物忘れがひどくなり、軽い認知症の症状が認められるようになりました。初めて訪れた場所でご自宅に帰る道がわからなくなってしまったり、食べ物をレンジに入れたまま腐らせてしまったりするようになり、ご家族様が心配されてご相談にいらっしゃったのです。そしてご本人によく説明されないまま、ご入居を決められました。
Mさんの介護度は要支援1ですが、ご入居前に一度もお会いすることがなかったため、私たちスタッフは多少の不安を覚えていました。いざご入居されてみると、その不安は的中。Mさんは「いつ帰れるのか」とご帰宅のことばかり考えていらして、「ここに住む」という意識を持っていただくのは難しそうでした。
そこでスタッフが入れ代わり立ち代わりお声がけし、お話し相手となるよう努めました。
現在、ご家族は週1回いらっしゃっています。当初はお帰りになる時に一緒に帰ろうとされていたのに、いつの間にか「じゃあバイバイ」と見送られるようになり、「ここをご自分の住まいとして認識して下さってる!」と嬉しくなりました。
女性スタッフが夜勤に入ると「女の人が夜遅くまで大変だ」と心配され「一緒に起きていよう」とおっしゃってくださるような優しさも見せていただくようになり、スタッフはみな困るやら嬉しいやらです。
クリスマスにはパーティーを催しましたがMさんが心から楽しんでくださっていて、その姿に私たちも嬉しくてたまりませんでした。
センチュリーハウス玉川上水はまだオープンしたばかりですが、Mさんの笑顔を拝見するたびに、ご入居者の皆様にとってますます居心地の良い住まいとなれるようにと思いを新たにしています。
vol.2 ケアスタッフ 海老原 大紀さん
木更津真心生楽館
千葉県木更津市
介護付有料老人ホーム
平成25年11月の木更津真心生楽館オープン当初に、グループホームから入居されたS様。認知症の症状があり、当初はお顔の表情が乏しかったことを覚えています。
お部屋でぼんやりされることが多く、私たちがレクリエーションへの参加を促しても「やりたくない」と断ってベッドで横になったままという日々が続きました。
S様は、まだ介護の経験の浅い私が初めてケース担当として任せていただいた入居者様です。
このままではいけないと思い、「何か私に出来る事はないだろうか」とご家族様や先輩職員に相談したところ、「家に居る時は散歩が好きで、毎日外を歩いていた」とお聞きしました。そこで毎日お散歩に誘うことにしました。最初は拒否されたり、散歩に出ても嫌がられたり。でも徐々にS様の意欲が高まってきて、2ヶ月経った現在ではご自分から「早く行こうよ」とお散歩に私を誘ってくださるほど積極的になりました。
すると、S様の日常生活にも変化が現れました。最近では日中横になっている事もほとんどなくなり、レクリエーションや行事にも自ら参加されるようになりました。
嬉しいのは、S様の表情が穏やかになったことです。ご家族様からも「前より笑顔が増えた」ととても喜んでいただいています。
ご家族様のご協力そして先輩職員のアドバイスがあってこそですが、今のS様の笑顔を見ていると「介護の仕事に就いて良かった!」と心から思います。私自身にとってとてもいい経験にとなりました。
これからも、一人でも多くの入居者様の笑顔を見られるよう、頑張りたいと思っています!
vol.3 ケアスタッフ 安田 裕美さん

ふる里
千葉県君津市
サービス付き高齢者向け住宅
Aさんは、ふる里に入居されて約2ヶ月になる女性です。
入院先から移っていらしたのですが、その時は寝たきりに近い状態でした。自分ひとりでは立ち上がることができず、お手洗いにも行けません。お食事も召し上がらず、栄養補助食と点滴でまかなっていました。認知症の症状もあり、私たちが身の回りのお世話をしているときも自分の置かれた状況がわからないご様子で、ぼんやりされていることがほとんどでした。
ところが、入居されてしばらく経った日のこと。お風呂で介助していたのですが、私の手が冷えていて冷たく感じられたようです。Aさんは私の手を取り、一生懸命さすりはじめました。「温めようとしてくださっている!」とびっくりしました。
その頃から、Aさんは介助する私たちに「ありがとう、ありがとう」と感謝してくださるようになりました。やがて自分でつかまり立ちができるようになり、今ではお手洗いで排泄もできます。お食事も、ご自分の手で美味しそうに召し上がりになれる時もあります。
起きている時間もどんどん長くなり、今では若いころのお話など思い出話もよくしていただけるようになっています。ご家族の皆さんにも「元気になった!」と喜んでいただいています。
Aさんに何か特別なことをしたということはありません。1日でも長く入居者の皆さんにお元気に過ごしていただきたいので、私たちは常にご利用者様を「待つ介護」を心がけています。
これからも、介護させていただく私たちの都合ではなく、ふる里を利用される皆さんひとりひとりを見守り、その時その時を大切にしていきたいと思っています。
vol.4 生活相談員 藤井 日斗美さん

アースサポートクオリア東浦和
埼玉県さいたま市
介護付有料老人ホーム
当施設がオープンした約2年前から、奥様と共にご入居されているD様。もともとおふたりで暮らしていらして、3年前の東日本大震災の時にご家族様が駆けつけると「地震なんて無い!」と。震災前からの認知症が進み、隣で奥様が余震におびえていても地震の記憶がなかったのです。
その後1年ほどはご家族が通ってお世話され、当施設のオープン時にご近所にお住まいのご子息がいらして、D様ご夫婦の入居を決められました。
奥様はすぐなじんでいただきましたが、D様は「家に帰る」「息子のところに行く」などひとときも落ち着きません。「息子に電話したい」と10分おき、5分おきにおっしゃることもしばしば。部屋中の荷物をまとめて持ち、暑い夏にも関わらずご子息の家まで歩くことを4回繰り返した日もあります。
かつてデイサービスで嫌な思いをされて、入浴は断固拒否。ご入居前から半年以上も入浴されておらず、歩くだけで垢が床に落ちるほどでした。服を脱いでいただけず、足だけとか背中だけを拭かせていただいていました。
怒鳴られたり叩かれたりしながらも、ご要望を一切否定せずお付き合いし、少しずつ信頼関係を作っていきました。半年ほど経って「髭を剃りましょう!」とお風呂場にお連れし、ついに入浴に成功。繰り返すうちにすんなり応じてくださるようになり、今では鼻歌を歌いながらお風呂場へいらっしゃいます。
現在も3分前のことはお忘れになりますが、職員の顔は覚えてくださって「帰るのか、転ぶなよ」とか「今来たのか、随分遅いご出勤ですなぁ」など声を掛けてくださいます。
ご入居から1年経ってご子息から「最初はどうなることかと思いましたが皆さんのおかげで父も落ち着きました」とおっしゃっていただくことができました。
尊厳を持ってその方らしくお過ごしいただきたい、どんなお客様ともしっかりと向き合い、心穏やかに過ごしていただきたいと思っております。
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