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ペットが繁殖して陥る「多頭飼育崩壊」を防ぐ~ペットから見る高齢者問題3

2017年4月14日

ペットは、高齢者だけでなくすべての人にとって癒しになりえます。けれどもひとたび適切な世話やしつけを怠れば、糞尿や毛による汚れ、臭い、鳴き声など生活を脅かす問題が発生するのが動物との暮らしです。

 

不妊手術を施さずに多数の動物を飼育すると、繁殖して頭数が増え、コントロールできなくなる「多頭飼育崩壊」という事態になることがあります。実は高齢者がその当事者となるケースが多いと言われているのです。
このことは、人と動物双方のQOL(生活の質)を大きく損ないます。今後は福祉、医療、ボランティアなどの高齢者を囲む人々の連携で、予防していくことが重要です。

 

註 このシリーズでは、事例は取材事実にもとづき、当事者のプライバシーに配慮して、適宜改変してあることをお断りさせていただきます。

 

<取材・文 椎崎亮子>

 

*「ペットから見る高齢者問題」の1回目2回目3回目4回目5回目(最終回)はこちら

 

「田舎では、こんなにも猫は増えなかった」と語る、高齢の女性

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荒れた家の中のいたるところに猫たちがいた

小さなアパートは敷地の外まで強いアンモニア臭が漂っていました。玄関を開けた瞬間、部屋中いたるところから、すさんだ顔つきの猫がこちらをにらみます。
畳は猫の糞尿が染みて腐り、ふすまは骨組みだけ。壁紙も家具もみなぼろぼろ。室内に入って数分で、アンモニアの刺激で目が痛くなりました。今から10年あまり前の夏のことです。

 

その中で生活していた高齢の女性は、こう語りました。
「最初はね、子猫を4匹拾ったの。田舎では猫はこんなに増えたりしなかったよ。都会の猫は、すごく増えるんだね」

 

これは、昨今ではニュース番組等にも取り上げられる機会が増えてきた「多頭飼育崩壊」という状態です。
つまり、不妊去勢を怠って飼育した動物が管理できない頭数にまで繁殖し、飼い主も動物も不衛生でQOLの低い状態に陥る事態のことです。

 

この女性が4頭の子猫を拾ってから、40頭を超える頭数に増えて飼育崩壊するまでに、たった3年しかかかりませんでした。

 

猫の繁殖力の強さはまさにネズミ算ならぬ“猫算”(千葉県柏市『猫の飼い方・管理に関するガイドライン』より)

猫の繁殖力の強さはまさにネズミ算ならぬ“猫算”(千葉県柏市『猫の飼い方・管理に関するガイドライン』より)

猫はとても繁殖力が強く、メスは年に2~3回は出産できます。1回に産む子猫は3~6頭程度。子猫は生後半年で繁殖が可能です。
高齢の女性のいうとおり「田舎の猫」は増えません。野良猫などの外で暮らす猫は、栄養不足や感染症、カラスといった外敵のせいで子猫が育たないからです。

 

室内で高栄養のフードを与えられていれば、子猫は生まれた数だけ育つことができ、短期間で繁殖を繰り返します。
繁殖期の猫は尿や便を周囲にまき散らすマーキングをすることがあり、それらを防ぐためには、不妊手術を施して飼育する必要があるのです。

 

多頭飼育崩壊に陥った高齢の女性には、これらの「正しい」飼育の知識に触れる機会がありませんでした。

 

猫を殺処分するのか? 遠くに住む家族の困惑

遠く離れて住むご家族は、久々に帰省した実家が猫だらけの変わり果てた様相になっていたことに驚き、途方に暮れました。
むろん、地域の動物愛護センターに相談したそうですが「自分で猫を連れてきたら(殺)処分できます」と言われ、断念したといいます。もともと動物が好きな一家であり、猫たちの命を奪う決断はできなかったのです。

 

ひどい悪臭は当然、アパート中の迷惑になっており、管理会社からは即刻退去を言い渡されていました。しかし女性は経済的に、転居もままならない状況でした。

 

高齢の女性は、行政や医療からも支援を絶たれた

多頭飼育崩壊が起きた部屋。猫の排せつ物が家財すべてを汚染していた

多頭飼育崩壊が起きた部屋。猫の排せつ物が家財すべてを汚染していた

当時、多頭飼育崩壊に関する社会的な認知度は低く、飼育者本人の「不始末」「自己責任」ととらえられていましたが、この事例ではそうとは言い切れない部分が多々ありました。

 

経済的困窮は、女性の心身の健康問題に端を発していました。
ところが、かかっていた医療機関の医師から「もう来るな」というような言葉を浴びせられていたと聞きました。衣服に染み付いた猫の糞尿臭が不衛生だという理由です。
福祉行政も関係してはいましたが、「猫を何とかしなさい」と繰り返し迫るだけで、具体的な支援は何もありませんでした。

 

日本では「多頭飼育崩壊」の解決方法が確立していない

日本では多頭飼育崩壊のシステマティックな解決は難しいのが現実です。
飼育する動物は、法律上、その所有者(飼い主)の財産とみなされるため、行政(保健所や愛護センター)が強制的に動物の保護を行うことはしません。

 

動物の愛護と管理に関する法律(動物愛護法)では、多頭飼育によって飼い主が周囲に迷惑を及ぼしている場合、都道府県から改善の勧告や命令を出すことができると定められています(第25条第3項)。これも現状では「飼い主に自分でなんとかせよと迫る」だけのものです。

 

飼い主から要請があっても、都道府県の愛護センターなどは引き取りを拒否することができます。動物の殺処分数を減らすことが国の方針として定められているためです。(※動物愛護法第35条および第2項)。

 

また「引き取ってもよいが愛護センターまで自分で連れてきなさい、1頭当たり数千円の引き取り料がかかります」と言われれば、動物を運ぶ手段と費用のない高齢の飼い主などは、そこであきらめてしまう場合もあります。

 

高額の動物医療費が、高齢者の負担となる

先述の高齢女性のケースでは、一般市民である個人ボランティアたちが連携して、その女性の人権に極力配慮する形で解決に当たりました。
管理会社に協力をとりつけ、アパート内を清掃して衛生状態を改善。猫たちを全頭保護・不妊手術して手分けして預かり、数か月をかけて譲渡先を探しました。

 

このように民間の動物愛護団体やボランティアが見かねて解決に乗り出すことが多いのですが、数十頭の動物を保護する上に、動物医療費等の莫大な費用など大きなリスクを負うことになります。

 

動物の不妊手術費は、決して安くはありません。動物病院によって幅がありますが、一般的に猫で、オスで1万円前後、メスで2万円前後かかります。
地域猫(1回目参照)や多頭飼育崩壊の場合、医療費を減額してボランティアに協力する動物病院もありますが、一般の飼い主には減額などの制度はありません(*)。
このケースで解決に要した経費は、すべて善意の寄付と動物病院の協力で賄うことができましたが、それでも総計で百数十万円に上りました。

 

*地域の獣医師会などで不妊手術の補助金制度がある場合もある。多くは1家族につき1頭のみなど限定的

 

都内で行われたシンポジウムでも、多頭飼育崩壊を未然に防ぐことが、今後の重要課題という意見で一致した

都内で行われたシンポジウムでも、多頭飼育崩壊を未然に防ぐことが、今後の重要課題という意見で一致した

動物を引き受けたボランティアが「二次崩壊」を起こすこともあります。
前回ご紹介したシンポジウムでも、「今後、動物ボランティアの高齢化にともない、多頭飼育崩壊が増える」との懸念が語られていました。
また、NPO法人ねこけんが、不妊手術を無料で行う動物病院の建設を計画しているのは、高額な動物医療費が飼い主(特に年金生活の高齢者など)の負担となり、多頭飼育崩壊の一因になっていると考えるからです。

 

多頭飼育崩壊は起きる前に予防することが、今後目指すべき課題だとシンポジストは口をそろえます。
多頭飼育崩壊を起こす可能性のある高齢者が、地域の野良猫に餌を与えていることは少なくありません。これらの有効な防止策になりえるのは、地域猫活動(1回目参照)を充実させ、ボランティアなどの地域住民とのかかわりを保つことです。
また、当事者の近しい福祉関係者や家族が早期に動物のことを相談できる体制を作ることも課題となってきます。

 

多頭飼育崩壊には、精神医療のサポートが必要なケースも多い

欧米では、多頭飼育崩壊は、個人の問題ではなく社会問題としてとらえられています。
解決には、当事者を囲む行政機関や福祉、医療などの多職種が連携し、民間ボランティア(愛護団体や個人)と協働して当たります。
動物と人(当事者)を、各職種が役割分担してケアすることで、あるべきQOLを取り戻すとともに、再発の防止に取り組むのが狙いです。

 

冒頭の事例では、当事者の心身のケアが大きな課題として残りました。不適切な飼育状態であっても、女性は猫を心のよりどころとしていました。
しかし解決には全頭を女性から取り上げるしかなく、動物ボランティアは人間のケアにはかかわれませんでした。

 

多頭飼育崩壊の当事者の中には、寂しさから再び動物を手に入れ、問題を繰り返してしまう人もいます。
また、アニマルホーダー(animal hoarder)と呼ばれる、動物を所有することに強く執着し、人と動物双方の生活が破たんしていても、決して手放そうとしない人もいます。
なんらかの精神疾患が疑われるため、欧米では多頭飼育崩壊の解決に精神科の医療者がかかわります。

 

横山章光医師は、東京都世田谷区のあいわクリニックで、臨床医として動物に関係する悩みや問題を抱える人の診療にも携わる

横山章光医師は、東京都世田谷区のあいわクリニックで、臨床医として動物に関係する悩みや問題を抱える人の診療にも携わる

ですが、日本では精神科医療が介入することはほぼ皆無です。なぜでしょうか。
その事情を、長年、アニマルセラピー、動物虐待、多頭飼育崩壊など、人と動物との関係の問題について研究してきた、精神科医の横山章光医師は次のように語ります。

 

「欧米では多頭飼育崩壊は、他人の住環境の侵害や動物虐待などの犯罪に該当します。
ただし当事者を単に罪に問うて刑罰を科すのではなく、精神的な疾患が背景にある可能性を踏まえ、『減刑する代わりに治療を受けて心身の改善を図る』という選択肢が示されます。
日本では、法律に触れる行為にはダイレクトに刑罰を科します。罪に対する考え方が違うのです。
また、日本の行政や医療者には、多頭飼育崩壊の背景に精神的疾患があるという認識は浸透していません。もちろん当事者本人も病識がなく、医療機関にかかることがないのです」

 

強い孤独感が、高齢者の脳を傷つける可能性

多頭飼育崩壊をした当事者の背景には、認知症や知的障害などの疾患がありえます。
またアニマルホーダーの場合、海外の研究では依存症や強迫性障害の一種ととらえられていますが、横山医師は、それだけでは説明がつかない部分があると話します。

 

「当事者にほぼ共通するのは、加齢に加えて社会的な喪失体験があることです。
配偶者との死別などで強い孤独感を体験し、脳のコミュニケーションを司る部分になんらかの器質的な障害(細胞や組織に物理的な変化がある状態)がおき、正常な判断ができなくなるのではないかという仮説を私は立てています。
認知症は、脳の萎縮という器質的な障害が原因です。また発達障害の中にも、前頭葉に障害のあるケースがわかってきています。
多頭飼育崩壊の当事者の脳でも、後天的な発達障害と似たメカニズムの障害がおきているのではないかと推測しています」

 

高齢者を孤独にしないための多職種連携

横山医師も、多頭飼育崩壊を多職種チームで解決するのが理想だと考えています。人の出入りが増えれば、当事者が孤独にならずに済むからです。

 

「孤独とは、人間にとって脳のどこかを壊さなければ耐えられないものかもしれないと、私は思います。
多頭飼育崩壊を起こした人は、“人間同士のかかわり”をなんらかの状況で失い、または拒否して、“動物とのかかわり”だけに閉じこもっていることがあります。本来の“人間同士のかかわり”を取り戻すことが、解決のひとつの糸口になるでしょう」

 

次回は、高齢者が動物を飼うことのリスクとメリットについて多角的に考えます。

 

参考 動物の愛護及び管理に関する法律

 

*「ペットから見る高齢者問題」の1回目2回目3回目4回目5回目(最終回)はこちら

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