浴室で転倒骨折したBさんのリハビリテーション
Bさんは90歳の女性で、一人暮らしをしていました。足腰がしっかりしていて、何でも一人ですることができました。トイレや入浴、掃除はもちろん、食事の準備や後片付けも自分で行っていたのです。ご近所付き合いも多く、毎日みんなと世間話をするのが楽しみでした。
しかしそんなBさんが、ある日転倒しました。入浴中に洗い場で滑り、腰を打ってしまったのです。その日は偶然Bさんの家に立ち寄った娘さんが、救急車を呼びました。検査結果は、大腿骨骨折。5日後に手術を行い、1ヵ月間入院となりました。手術後は病院でリハビリを受けていたのですが、なかなか回復する兆しが見えません。そんな中、Bさんが「自宅に帰りたい」と言い出しました。病院では気分が滅入るばかりで、リハビリに気が入らないというのです。
このままでは良くならないと思った娘さんは、担当医に相談をしました。しかしBさんは、以前のように何でも自分でできる状態ではありません。訪問介護が不可欠になることからケアマネジャ-にも相談を行い、退院と介護サービス利用の手続きを行いました。
訪問リハビリテーションのはじまり
介護サービスを受けるにあたり、Bさんはまず介護認定の調査を受けました。認定調査の結果、Bさんの要介護度は4。週7回の訪問介護で身体介護と家事援助を受け、さらに訪問リハビリテーションの利用も始まりました。
訪問リハビリテーションの利用料金や利用可能回数は、以下の通りとなっています。
◎医療保険を利用する場合
【料金】各種保険の自己負担割合によって変わります
【回数】1日40分、週6回まで
◎介護保険を利用する場合
【料金】・訪問リハビリテーション費:1回20分=305円×2回(1回20分)/日
・訪問リハビリテーション体制強化加算:1回20分=6円×2回(1回20分)/日
・短期集中リハビリテーション実施加算:200円~340円/日
【回数】1日に40分までで週に6回まで。
退院直後は短期集中リハビリテーション実施で加算され、1ヵ月目や2ヵ月目などで金額が変わります。
Bさんは、介護保険を利用して訪問リハビリテーションを始めました。退院直後のため集中リハビリテーションを受け、日を追う毎にその表情は明るさを取り戻していきました。何より「自宅で過ごせる」ということが、Bさんの気持ちを和らげたのです。
訪問リハビリテーションの内容
Bさんはまず初めに、手術後に動かすことが少なくなった左脚の曲げ伸ばしを行いました。硬くなった膝関節を何度も動かしながら、少しずつ曲げる角度を大きくしていきます。不自由さに苦労しながらも、Bさんはリハビリテーションの効果を信じて一生懸命に取り組んだのです。そして1週間もすると、作業療法士の手を借りなくても自分で曲げ伸ばしが可能になりました。
すると今度は筋力増強を図り、ベッド上での起き上がりや手摺に掴まって立ち上がる練習をしました。Bさんが信じた通り、リハビリテーションの効果は絶大でした。1ヵ月後、Bさんは手摺に掴まって自立歩行できるまでに回復したのです。
回復を喜んだBさんは、続けて室内での歩行練習を行います。トイレに入浴と、少しずつ日常生活の動作練習を重ね、ついに3ヶ月後には3点杖を使用しての歩行が可能になりました。
訪問リハビリテーションで取り戻したご近所づきあい
ある晴れた日、Bさんは娘さんと一緒に外へ出ました。久しぶりの外は清々しく、とても気持ちの良い朝でした。家前に置いたベンチに腰掛けて花壇を見ていると、ご近所さんが集まってきます。2人、3人と増えていき、いつもの世間話が始まりました。「やっぱり外はいいわねえ」と言うBさんに、「私たちとお喋りできるからでしょう」ご近所さんがみんな、口をそろえて笑いました。
入院後にBさんを支えていたのは、何より自宅で過ごせることの喜びでした。何気なく過していた日常が、かけがえのないものだと知ったのです。失いかけた日常を、訪問リハビリテーションが取り戻してくれたのでした。