もっとも多い介護用品の事故は「電動介護ベッド」
要介護の高齢者と介護をする人それぞれにとって、なくてはならないのが介護用品です。そのなかでも、快適な介護環境に特に役立つのが電動介護ベッドではないでしょうか。
電動介護ベッドとは、リモコン操作によって上半身や下半身のリクライニングが無段階にかけられたり、ベッドの高さを変えられたりするベッドです。介護者の負担を軽減するだけでなく、介護を受ける人が立ったり座ったりを自力で行いやすくなるため、自立を促す効果も期待できます。
そんな便利な電動介護ベッドも、使い方を誤るとケガや死亡事故につながるおそれがあります。
NITE(製品評価技術基盤機構)の調査によると、2012年度からの5年間で起きたあらゆる製品による事故の約3割が高齢者であり、さらに死亡事故について挙げると、その高齢者比率は約7割にのぼります。
製品事故のなかでも、介護用品による事故でもっとも多いのは介護用ベッドに関するものです。電動介護ベッドに寝ている要介護者の腕や足がベッドのサイドレール(柵)から出ていることに気がつかずに、介護者がリモコン操作をしてしまい腕や足がサイドレールに挟まれるケースや、サイドレールとヘッドボードなどのあいだに身体の一部を挟んでしまうケースなど、介護ベッド周りの事故の多くがサイドレールに関連しています。
2009年のJIS改正では、多発するサイドレールの挟み込み事故を受けて、介護ベッドの安全性を見直すため手すりの隙間の寸法などの規定が追加されました。改正前のベッドを使用している場合は、より注意が必要です。
周りの人が目配りをしたり、新たに改良された製品への買い替えをするなども検討したほうがよいかもしれません。
介護ベッドによる事故を防止するには
事故を防止するには、介助者は介護ベッドの操作をする前に「ベッドを上げますよ」と要介護者への声掛けによって注意を促すことや、要介護者の手足がどこにあるのかを確認する癖をつけることなどが有効になります。
片麻痺などがあり、手に力が入らない要介護者の場合は、ベッドを動かす前に健常な手で麻痺側の腕を持って支えるように声を掛けることも有効です。
サイドレールや、ベッド用グリップ(手すり)が極端にガタガタしていないかどうか、しっかりと固定されて簡単に外れない状態にあるかどうかなど定期的に点検をすることも事故防止につながります。
また、腕や足が細い要介護者の場合、どうしてもサイドレールの隙間に手足が入ってしまうことがあります。クッションや枕を置いて隙間を埋める工夫も必要です。
そのほかにも、ベッドの下に物が落ちているとそれを拾おうとして転落する危険性が出てきます。ベッド周りは整理整頓するよう心がけましょう。
さらに、寝たきりの高齢者の場合、おむつ交換時や寝返りをうたせる体位交換の際にサイドレールに頭や身体をぶつけてしまうことがあります。介助者は高齢者の身体がベッドの真ん中にあるかどうかを確認してから介助にあたるよう心がけることも大切です。ベッドの両サイドに毛布やタオルを巻いて衝撃を和らげる方法もあります。
「電動車椅子」も事故の危険性が高い
介護用品の事故で、次に発生件数が多いのは電動車椅子によるものです。電動車椅子とは、電動モーターを搭載して手元にあるレバーで操作する車椅子をいいます。
手の麻痺や筋力低下により普通の車椅子を自力で漕ぐことが難しい人が、自分の意志で移動できるメリットがある一方で、重大な事故も発生しています。
電動車椅子の操作を誤って転倒するケースや、踏切内で電動車椅子のバッテリーが切れ、電車に接触したケースなどがあります。電動車椅子から転倒や転落した際に頭部を強打したり、重さのある電動車椅子の下敷きになったりして死亡する危険性もあるのです。
電動車椅子による事故を防止するには
電動車椅子の事故を防ぐためには、まず操作を完璧にすることが必要です。速度設定を間違えたり、前進と後進の操作を誤ったりする操作ミスが原因の事故も多く発生しています。
販売店やレンタル事業所に正しい操作方法を教わり、危険のない道で操作の練習をすると事故防止につながるでしょう。また、外出の際は歩道を通行し、なるべく坂や障害物の多い道を避け、危険を感じたら無理をせず周囲の人に声をかけることが必要です。
一方、電動車椅子だけでなく、車椅子の操作ではブレーキのかけ忘れが重大な事故につながる可能性もあります。普段からブレーキがかかっているか確認するように癖をつけることが大切です。
そのほかにも、車椅子のフットサポート(足置き)の出し忘れも思わぬ事故を招きます。車椅子の移動時に足を巻き込んでしまったり、地面に足を引っ掛けて転倒したりする危険性があります。車椅子を動かす際は手や足の位置の確認をしましょう。
そして、認知症の疑いのある高齢者は危険を伴うため、電動車椅子の乗車は控えさせたほうが賢明な判断といえます。
介護用品の利用は正しく安全に
介護用品は、介護をする人も介護される人も負担が軽減できる便利な道具です。しかし、使い方によっては重大な事故を招くおそれがあります。
介護用品の安全性向上については、介護用品自体の改良も求められますが、実際に使う高齢者やその家族が、販売店またはレンタル事業所の担当者の話をしっかり聞く、周囲の人が見守りや声を掛け合うなどの対策も必要になるでしょう。