
ケアマネジャーのIさん、Hさん、福祉用具専門相談員のMさんが、豊富な体験をもとに座談会。実際に介護靴を前に自ら試してコメントします。
高齢者や病気・怪我・障がいがある方などのために開発された介護用品・福祉用具。機能が満載されていますが、一見してどこがどう機能的なのか、わからないことが多いですよね?
そこで、機能や種類をわかりやすく紹介するのが、この企画です。福祉用具専門相談員や、日頃から高齢者の利用者さんに数多く接しているケアマネジャーさんにも、実際の商品を見ながら選び方のポイントを教えてもらいます。
今回からの4回は、介護靴(リハビリシューズ)を取り上げます。
協力:徳武産業株式会社「あゆみシューズ」
転倒の原因は靴にあることが多い
「歩く」ことは、自立した生活に欠かせない、もっとも基本的な動作のひとつです。
自分の足で歩行することで、目的地に向かうことができ、希望することを実行できます。高齢者が自分の意思で移動することが、寝たきりや閉じこもりの防止に有効とも考えられ、それが、日常活動動作(Activities of Daily Living: ADL)や生活の質(Quality of Life: QOL)の維持・向上につながります。
また、歩くことは、だれでも生活に取り入れやすいひとつの「運動」でもあります。運動をする機会を増やすことが、高齢者の死亡率低下につながるそうです。無理のないようにしながらも、大いに歩きたいですね。

しかし、歩行動作は、加齢に伴って変化します。背中が丸くなるなどの身体変化が起こり、老人特有の病気も原因になり、脚の筋力や機能が低下します。姿勢も保持しにくくなり、柔軟性にもかけてきます。すると、図のような歩き方になります。
「足を高く上げることができにくくなり、すり足で歩いたり、足の外側に体重をかけたり。するとつまずきやすく、転倒しやすくなります。転倒すれば骨折しやすくなり、車椅子や寝たきりの状態になってしまう方もいます」と、ケアマネジャーのIさん。
また、東京都生活文化局消費生活部生活安全課が調査した「1年間で履物が原因となった転倒・転落の有無」の結果を見てみると、「履物に原因があった」が38.5%も占めています。
また、転倒転落の原因として指摘した履物は「つっかけ」「スリッパ」が上位2位を占めています。転倒しにくい靴をはくことの重要性がわかりますね。

*65歳以上の東京都民約1000人にアンケート調査した結果(平成12年11月1日~平成13年10月末日までに起こった転倒・転落事故について)
加齢とともに、外反母趾やむくみで靴がはきにくく
また、年齢とともに、足の形も変形してきます。
加齢に伴い、足のアーチはくずれやすくなります。足には、かかとと親指のつけ根と小指のつけ根を支点にした3つのアーチがあります。 土踏まず(内側タテアーチ)のほかにも、親指と小指の間の“ヨコアーチ”小指とカカトの間の“外側タテアーチ”があり、この3つのアーチがしっかりしているとクッションの効いたバランスのいい足ということになります。
しかし、加齢に伴い、足のアーチがくずれ、落ち込みます。足のアーチが落ち込むと、疲れや足の裏の痛みなど足本体に障がいが出るだけではなく、膝痛・腰痛・体の骨格のゆがみなどが出ることがあります。そして足のアーチの落ち込みをほうっておくと足の骨格が崩れ、外反母趾などを引き起こすのです。
「高齢者の方には外反母趾が多く、『靴が当たって痛い』と訴える方も多いですね。こういう方の靴の選び方も大事です」と、ケアマネジャーのHさん。
さらに、高齢者は病気や内臓の機能低下、服薬の影響などでむくみやすく、その点でも靴の痛さを訴える方がいます。
足が痛ければ、外出も控えてしまい、消極的になります。また、歩かなくなれば運動量も減り、筋力がますます衰えてしまい、転倒にもつながります。
足にフィットする靴を履いて、楽しく安心して歩き、健康に過ごしたいものですね。
介護靴は、大きく分けて3種類

左端から外出用、中央が院内用、右が室内用(あゆみシューズ)
こうした高齢者の歩行や足の状態を踏まえ、トラブルによる事故を防ぎ、歩きやすく、フィットしやすく開発されたのが、介護靴です。
介護靴は、大きく分けて、以下の3種類があります。
1.室内ばき
2.施設や院内用シューズ
3.外出用シューズ
1.室内ばき
室内では、靴下をはいて過ごす方もいますが、これもまた、転倒の原因になりやすいのです。特に、フローリングで滑って転ぶケースが多く、「ついこの間まで元気で過ごされていたのに、靴下で滑って骨折し、入院した方の話も聞きましたね」と、Iさん。
裸足なら滑りにくいことは滑りにくいですが、「段差や物に足をぶつけて怪我をすることもありますよ」とHさん。
「足にフィットする室内ばきをはいたほうが、安全な場合が多いです」と、福祉用具専門員のMさんも言います。
2.施設や院内用シューズ
室内ばきと外出用の中間ぐらいにあるもので、ほどよくグリップ力があり、それでいて軽く歩きやすい靴です。甲の部分はクッション性の高い布、靴底はEVAなど、軽い素材ですべりにくく溝をつけたものなどが多いようです。
3.外出用シューズ
おでかけ用のシューズです。「そんなの、ウォーキングシューズも持っているし、パンプスもあるわ」と言う方がいらっしゃるかもしれませんが、「転倒しやすい高齢者の足の状態に合わせた靴のほうが、安全性が高いですよ」とMさん。
3種類の介護靴、用途や足の状態にあわせてどう選んだらいいのでしょう?
次回から順番にお伝えします。