「遠距離介護」とは、遠く離れて暮らす親を介護する方法のこと。そんなことできるの? と思う人も多いでしょう。しかし、介護とは身近で行う身体介護ばかりではありません。親の生活を見守りつつ、自分の仕事や生活も大事にする、「遠距離介護」の現状と課題を考えていきたいと思います。
<文 星野美穂>
「介護は近くで」という常識をくつがえす
もし今、親が倒れたら、あなたはどうしますか。
近くに住んでいればすぐに駆けつけられるし、直接世話をすることもできます。
では、遠く離れて暮らす親が倒れたら?
親を呼び寄せて介護しますか? それとも、自分が仕事を辞めて駆けつけますか?
呼び寄せるという選択肢をしたとしても、高齢者の生活環境の変化は本人への影響が大きく、近所に友人もなく土地勘もないため、家に閉じこもりがちになり、かえって足腰が弱ってしまったという話は、よく聞くところです。
仕事を辞めて故郷に帰っても、現在の社会情勢では今と同じような条件で故郷で職を見つけるのは至難の業です。そしてもし故郷で職が見つけられなければ、親の介護はもちろん、自分自身の生活も立ちいかなくなります。
電話で「元気?」も介護の1つ
離れて暮らす親の生活を、遠くから見守り応援する。それが「遠距離介護」です。
「介護」とは、近くで食事やトイレ、入浴など直接的な身体介護をするばかりではありません。「元気?」と電話をして、調子が悪い時は医療機関への受診を勧めるのも「介護」です。
親の暮らしに不便や不都合がないか確認したり、地域にどのような高齢者向けサービスがあるかを探したりすることも「介護」です。
特に自分ではできない部分を専門家に代行してもらうために、介護サービスをコーディネイトすることは、遠距離介護では重要になってきます。
今回の特集は、さまざまな介護のかたちの1つである、「遠距離介護」にスポットを当てます。
第2回、第3回では、遠距離介護の情報を発信する「NPO法人パオッコ」のセミナーレポートを通じて、遠距離介護の「現状」を考えます。
第4回~第6回では、NPO法人パオッコの理事長で、「遠距離介護」という言葉の提唱者でもある太田差惠子さんにインタビューし、遠距離介護の抱える課題や社会面での問題点、あるべき姿などをお話しいただきます。
離れて暮らす親は大事です。でも自分の家庭や生活、仕事も大切です。
どうしたらお互いが笑顔で暮らしていけるのか、一緒に考えていきましょう。