高齢ドライバーによる交通事故
高齢ドライバーが起こす事故が大きな社会問題となり、近頃ではニュースを目にする機会も多くなりました。連日のニュースを目にすると、高齢運転者の交通事故が急増しているかのように感じられます。ですが、実は交通事故の件数自体は減少しています(*1)。
発生件数は、2009年には約6,883件でしたが、2018年には5,860件と、9年で約1,000件も減少しています。しかし、一方で高齢化率が高まっているためか、事故全体に占める高齢者の交通事故割合は増加しています。高齢者割合は、2009年で12.2%、2018年で18.0%。9年で5.8%の増加です。
高齢者の交通事故件数は減少しているものの、全体の割合が増加したために、目につく機会も増えてきたのかもしれません。
▼高齢ドライバー(第1当事者)の交通事故発生状況(2018年中)

警視庁HPより
どんな事故が多い?高齢ドライバーの事故原因
高齢ドライバーが起こす死亡事故で特徴的なのは、塀やガードレール、民家などへの衝突や、進行中の道路の外に出てしまうケースが多いことです(*2)。
75歳未満では横断中の人を轢いてしまったなど、「人に対する事故」が多いのに対し、高齢者は「物などに対する事故」が多いのが特徴です。
▼原付以上第1当事者の類型別死亡事故件数比較(2016年)

内閣府HPより
死亡事故の人的要因を確認すると、高齢者でもっとも多いのは、ブレーキとアクセルの踏み間違いや、ハンドルの操作が適切でないなどの操作ミスでした。
75歳以下では、居眠りや注意力がなくぼんやりするなどの漫然運転(内在的前方不注意)、それに安全の不確認が多くを占めます。
▼原付以上第1当事者の死亡事故における人的要因比較(2016年)

内閣府HPより
年齢によって、死亡事故の人的要因が違うことがわかります。
高齢ドライバーはなぜ操作ミスが多い?
「ハンドル操作などを誤って、塀や民家に車で突っ込んでしまう」。上記のデータでは、これがもっとも多い高齢者の交通事故です。
なぜこのような事故が増えてしまうのでしょうか。それには、高齢者ならではの理由がいくつかあります。
反射能力の低下
反射神経は、加齢とともに低下します。危険に気づいて「こう動きたい」「こう反応しなければならない」と頭ではわかっていても、動作に移すまでに時間がかかり、とっさの対応が難しくなります。そのため、危険を回避する行動に時間を要したり、あわてて操作ミスをしたり、事故を引き起こしやすくなるのです。
視力の低下
運転中に周囲の安全を確認するためには、目からの情報が欠かせません。視力の低下や視野の狭窄により、距離感のつかみにくさや、歩行者、標識、信号の見落としが増えることも、事故の原因となります。
認知機能の低下
認知症は、判断能力や集中力、注意力など運転に欠かせない部分の低下も伴います。高速道路の逆走をした高齢者が実は認知症だったこともあります。
警視庁のホームページに、「運転時認知障害早期発見チェックリスト30」が掲載されています。心配な人はもちろん、認知症の不安がなくてもチェックしてみるとよいでしょう。
体力の低下
高齢になると、体力や筋力が衰えてきます。正しくハンドルを操作したりブレーキ・アクセルを踏んだりするためには、体力や気力も必要です。
慢心による不注意
長年、運転してきた慣れや、「自分は、まだまだ大丈夫」という慢心も事故を招く要因となっています。
免許を自主返納する高齢者が増加
高齢ドライバーによる悲惨な事故が連日ニュースになったこともあり、運転免許証を返納する高齢者は増加傾向にあります。
1998年に免許の自主返納制度がはじまり、返納する75歳以上の高齢者も年々増えていましたが、2017年と2018年で一気に増加。警視庁の資料によると、2016年に16万程度だった高齢者の免許返納数が、2017年になるとおよそ1.5倍の25万強と急増しました。
2017年、75歳以上の免許更新手続きには、認知機能検査が義務付けられました。認知症と診断されれば、免許の更新ができなくなる仕組みです。
高齢者による事故の話題が多くなりはじめたのはちょうどこの前あたりだったため、自主返納の件数も急激に増加したと考えられます。
ただし、返納する高齢者が増える一方で、運転免許を持つ75歳以上の高齢者も増えています。
▼75歳以上の運転免許保有者数の推移

内閣府HPより
できることなら早めに免許返納を検討することが、事故を防ぐことにもなります。
免許返納にはオトクな特典がある
しかし、運転免許を返納したくても、それが困難な高齢者もいます。危ないと意識しながらも運転を続ける理由として多いのは、買い物や通院など、生活する上で必要不可欠だからです。
電車やバスなどの交通網が発達していない、駅まで歩くのが大変などの不便さは、車があれば解消されます。特に地方圏は移動手段がないケースもあり、車がなければ生活がままならないこともあるでしょう。
ですが、運転免許の自主返納をすることでたくさんの特典を受けられることもあるので、知っておいて損はないでしょう。
免許を返納して運転経歴証明書を交付してもらうことで、優待を受けることができます。警視庁や都道府県の警察ホームページなどで特典内容をチェックできますが、一部を紹介します。
タクシー・バス・電車の運賃割引
公共交通機関やタクシーなどの利用料金の割引があります。料金の減額や、数百円で一定の期間バスが乗り放題になる優待証の発行など、移動にかかる費用を軽減できます。
ホテルや観光地での割引
一部ホテルの宿泊料金や食事代、観光地の入園料、温泉の入湯料などが割引されます。本人だけでなく、一緒に行った家族も割引対象になる施設もあります。
デパート・スーパー
大手スーパーやデパートなどでは、配送料が無料になるなどの割引制度が設けられています。また、優待クーポンの配布などもあります。
その他
水道修理、メガネや補聴器の購入、法律相談、マッサージや人間ドッグ、車の買取り、バスツアーなど、幅広く優待を受けることが可能です。
このようにおトクな特典があるので、お住まいの地域の優待サービスをぜひチェックしてみてください。
まとめ
もし交通事故を起こせば、本人や家族だけでなく、被害者やその家族の人生を台無しにしてしまいます。現在、政府は自動ブレーキ搭載車両に限って運転できる高齢者用の免許証発行も考えているようですが、加害者にならないために、そして誰も傷つけることがないように、免許の自主返納は積極的に検討したいところです。
また、運転免許の返納は、本人が危険を自覚して納得した上で行うことが、のちの安全につながります。家族は強制するのではなく、本人のプライドに配慮して相談していきましょう。
参考
*1 防ごう!高齢者の交通安全!(警視庁)
*2 特集「高齢者に係る交通事故防止」(内閣府)