超高齢社会の日本では、高齢夫婦のみの世帯に次いで高齢者の単独世帯、いわゆる一人暮らし世帯が増えています。誰にも気兼ねなく過ごせる一人暮らしに満足している高齢者がいる一方で、不安を抱えている人もいます。
ところでなぜ、高齢者の一人暮らしは増加しているのでしょうか。ここでは、高齢者の一人暮らしが増加する原因や一人暮らしの高齢者が抱える問題点、さらに本人はもちろん家族の不安も軽減させるために有効な方法などを解説します。
高齢者の一人暮らし世帯の現状
厚生労働省の調べによると、2018年時点の世帯数は5099万1000世帯。そのうち約半数である2492万7000世帯に65歳以上の高齢者がいます。さらに、この高齢者のいる世帯のうち、27.4%の683万世帯が一人暮らし。高齢者の独居世帯が非常に多いことがわかります。
▼65歳以上の人がいる世帯の内訳
高齢者の一人暮らし世帯 |
27.4% |
高齢夫婦のみ世帯 |
32.3% |
その他世帯 |
40.3% |
一人暮らしをする高齢者の男女の割合をみると、男性がおよそ223万人、女性がおよそ460万人とあり、65歳以上で一人暮らしをしているのは女性のほうが断然多い状況です。
2016年のみずほ情報総研株式会社の調査結果(*)によると、女性が一人暮らしになる原因は、配偶者との死別が多くを占めます。高齢であるために配偶者を亡くす確率が上がることや、男性よりも女性の寿命のほうが長いことが考えられるでしょう。
高齢者の一人暮らしは今後も増えることが予想されます。国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年にはすべての都道府県で30%以上になることが予想され、そのうち15都道府県では高齢者の独居世帯が40%超となる見通しです。
独居高齢者が増加する原因
続けて、みずほ情報総研株式会社の調査結果を見ていきましょう。高齢者の一人暮らしが増える背景のひとつは、子どもがいない(未婚の人や結婚したが子どもがいない人)高齢者世帯が25.7%にもなることです。
そのため、高齢になって身近に頼る人がおらず、一人暮らしになるケースも多いのです。今後はさらに、晩婚化によって子どもをもたない夫婦や未婚の単身世帯が増えることが予測されるでしょう。
一方、1980年頃の日本は3世代同居が珍しくない時代。65歳以上の人の半数以上が子どもと同居していました。しかし、核家族化が進み、成人した子どもはいるが同居はしないという人も増え、家族の在り方そのものが変化しているといった印象です。
たとえば、子どもが進学や就職によって地方から都市部に進出した場合、新たな土地での生活基盤ができ、結果的にその土地で子ども自身が家族を持つケースもあります。それにより、親が高齢になっても子どもが実家には戻れないという現実を生みます。
なかには、一人暮らしの親が心配で近くに呼び寄せようとする子どももいますが、「住み慣れた家を離れたくない」「子どもの世話にはなりたくない」という高齢者が多いのも事実です。
高齢者が一人暮らしをすると、なにが問題?
高齢者の一人暮らしには、いくつかの問題点があります。
買い物難民の増加
たとえば、生活をするには食料品や日用品の買い物が必要不可欠ですが、高齢者のなかには車の運転ができない人や自転車に乗れない人もいます。そのため、徒歩圏内にスーパーやコンビニがない場所に居住している場合は、買い物や移動の不便さを感じる人が多くなり、買い物難民も増加します。
家計の負担や空き家問題
一人暮らしの高齢者の42.8%が「家計にゆとりがない」もしくは「家計が苦しい」と経済的不安を抱えているというデータもあります。
多くの高齢者世帯が食費に対して経済的負担を感じるなか、特徴的なのは一人暮らし世帯では「住居費」を負担に思っている人が多いことです。
その理由は、高齢夫婦のみ世帯や子どもと同居する世帯の90%が持ち家であるのに対し、一人暮らし世帯の持ち家率は69.9%にとどまっていることが関係しているのでしょう。
逆を言えば、一人暮らし高齢者の30%が賃貸住宅に住んでいるので、毎月の家賃が負担に感じるというわけです。
その一方で、1人で持ち家に住んでいる人は自分が亡くなったあと、空き家をどうするかという問題も出てきます。
介護が必要になったときや孤独死の心配
また、誰でも高齢になると介護を必要とする可能性が高くなります。特に一人暮らしの場合は、認知症の発症や病気の悪化に気づくのが、誰かと同居している人に比べて遅れがちです。そのため、介護が必要となるリスクが高い傾向にあります。
さらに、一人暮らしは孤独死への不安もあるでしょう。一人暮らしの人のなかには、自治会や町内会などのコミュニティーに属していない人も多くいます。そのため、連絡がつかないことで心配して訪ねてくれるような人がおらず、孤独死を招くおそれもあるのです。
一人暮らし高齢者の不安を減らすには
今後、さらに増える見込みがある高齢者の一人暮らし。その人たちを支えるためにはどうしたらよいのでしょうか。
家族ができるだけ訪問する
家族がいる場合は、定期的に訪問することです。家族が住んでいる家との距離にもよりますが、訪問できる場所にあるのなら、定期的に本人や家の様子を見に足を運びましょう。
たとえば、認知症の初期症状は本人の様子だけでなく、家の中の様子で発見できる場合もあります。訪問時、普段はきれいに片づけていたのに近頃部屋が散らかっている、冷蔵庫に同じ食材がいくつも入っているなどの違和感を覚えたときは、受診を検討するのもよいでしょう。
家族以外に見守ってもらう
家族の訪問が難しかったり、家族がいない高齢者もたくさんいます。その場合は、地域で見守るという方法も有効です。近所の人に気にかけてもらうことで、安心だけでなく、本人の生きる活力にもつながります。
また、民間企業が提供する「見守りサービス」の利用もおすすめです。遠方の親の安否確認や異変に対応する見守りサービスには、「センター型」や「通報型」などがあります。
前者のセンター型には、湯沸しポットと連携してお湯を沸かす様子が確認されないと家族に通知したり、電気の使用量によって生活リズムの異常を見つけたりするものなどがあります。
一方、後者の通報型は、ボタン1つでスタッフが駆けつけるサービスです。急な体調の変化やトラブルに巻き込まれた際に、ボタンを押して助けを求められる安心感があります。
介護保険サービスを利用する
介護サービスを利用するのもよいでしょう。公的な介護サービスは「介護度の高い人のためのもの」と誤解している人もいますが、介護度が低い人でも利用できるサービスがいろいろあります。ですから、一人暮らしの生活に少しでも不安がある人は、要介護認定を受けてみるのもおすすめです。
超高齢化社会に突入した日本では、今後も一人暮らしの高齢者が増え続けるでしょう。誰もが安心して自分らしい暮らしができるよう、いろいろなサービスの利用を検討し、地域全体で支え合えるようにしたいものです。
*参考資料 世帯類型別にみた「高齢者の経済・生活環境」について(みずほ情報総研株式会社)