なぜ高齢者は転倒しやすくなるのか?
東京消防庁によると、5年間に救急搬送された高齢者のうち、約8割が転倒を原因としていました。他人事ではない転倒事故には、大きく分けて内的要因と外的要因の2つがあります(*1)。
転倒の内的要因
まず内的要因とは、体力の衰えや老化、そして服用している薬の副作用が原因でバランス感覚が鈍くなる、視力が落ちる、注意力が不足することなどを指します。
薬の副作用が転倒を招いてしまうのには、3つの原因があるとされています。
1つ目は多数・多種類の薬を服用しているため。2つ目は、老化により内臓機能が低下しているため副作用を引き起こしやすい。3つ目は、そもそも服用している薬が自分に合っていないと気づいていない、もしくは気づいていても言わないことが挙げられるそうです。
もしも、薬を服用してから転倒した、もしくは転倒しそうになることが多くなったと感じたら、本人に確認して、再度薬を処方してもらった病院に相談するのがよいでしょう。
転倒の外的要因
一方で外的要因とは、段差や靴などの日常に潜む障害物を指します。
高齢者は、数ミリの段差でもつまずくことがあります。それは、高齢者自身は足を上げていると思っていても、実際にはさほど上がっていない、もしくはまったく上がっていないことが原因です。例えば、コンセントコードや敷布団につまずいて転倒したという事例も珍しくありません。
また、高齢者が転倒する場所で多いのは外ではなく部屋の中だという結果も明らかになっています。そのため、高齢者がいる家庭はなるべく床に物やコードを散乱させず、できる限り小さな段差を作らないようにしておくのが望ましいでしょう。
高齢者の転倒を防ぐには体と脳の運動を
転倒を防ぐために真っ先に思い浮かぶのは筋力アップですが、高齢者は体力が衰えてきているため、過酷なトレーニングは厳しいことが考えられます。そこで、軽い運動で肉体を鍛えながら、脳も鍛えることで転倒を防ぐ方法を実践してみましょう(*2)。
自力で歩ける高齢者であれば、多少なりとも足を上げる力があります。その足を上げるように命令を出すのは脳です。脳を鍛えることで、瞬時に判断できる力を養おうという方法です。
例えば、リズムに合わせて動く運動やボールを使った運動など、あえて体のバランスを崩すようなトレーニングを取り入れてみましょう。もちろん、動くことが困難であれば、イスから立ち上がって座ったりしゃがみこんだりというように、その人に合わせた運動方法で構いません。
あえて体のバランスを崩すことで脳がどうすれば転倒しないのか、瞬時に指示を出すようになることが期待できます。また、脳をトレーニングすると認知症予防も期待できるため、一石二鳥であることが考えられるでしょう。
食生活を見直して転倒後の骨折を予防する
高齢者の転倒を未然に防ぐことができれば一番よいのですが、それは100パーセントではありません。そのため、転倒してしまっても骨折に至らないように対策をする必要があります。
そこで、これまでの食生活を見直してみる方法を試してみましょう。骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」(*3)には、高齢者の骨折を防ぐためには「ビタミンDを摂取する」と書かれています。また、骨折予防にはカルシウムやアミノ酸も必要といわれています。
骨の形成や強化に必要なカルシウムの濃度を一定に保つよう機能しているのがビタミンD、そしてアミノ酸は、体を動かすために必要なたんぱく質を形成する役割があります。
カルシウムとビタミンD、そしてアミノ酸が不足することで骨の密度が下がり、骨の強度が低下してしまうのです。つまり骨が丈夫になれば、転倒後の骨折を防ぐことができます。
カルシウムやビタミンB、アミノ酸などがゼリーや粉末状になった食品も売られているので、固いものなどが食べられない高齢者は活用してみてはどうでしょうか。
*1 転倒予防のススメ(聖隷淡路病院)
*2 転倒の原因や転倒予防運動について(白十字)
*3 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版【PDF】