一部の若年性認知症は予防できる可能性が
全国に約3万8000人いるといわれている若年性認知症。64歳以下で認知症の診断を受けた人のことを指しています。
しかし、要介護認定を受けていない人も多く、人数も含め実態は十分には把握されていません。若年性認知症を持つ人に特化した介護保険サービスはなく、使いやすいサービスがないという理由で、要介護認定を受けていない人も少なくないのでしょう。
若年性認知症を持つ人は、高齢で認知症を持つ人以上に、困難な状況にあるのかもしれません。
「認知症」とは、ご存じのとおり、病名ではなく症状・状態を表す名称です。血圧が高い状態を示す「高血圧症」、お腹が痛い状態を示す「腹痛」などと同様に、症状の背後には原因となる疾患があります。
若年性認知症の場合、原因となる疾患は下記のグラフの通りです。
少し古いデータではありますが、現在も、脳にある種のタンパク質が蓄積することで発症するアルツハイマー病より、脳血管性の疾患の方が、若年性認知症の原因としてはより多いとされています。
▼若年性認知症の基礎疾患の内訳

*厚生労働省「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」の調査結果の概要(2009年3月発表)
つまり、若年性認知症の一部は、予防が可能かもしれないということ。効果的な予防法が見つかっていないアルツハイマー病と違い、脳血管性疾患はある程度予防できるからです。
「生活習慣病の予防」が「脳血管性疾患の予防」に
脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、脳の血管が切れる「脳出血」などの脳血管疾患は、生活習慣病の一つです。
そのため、脳血管性疾患の予防法イコール生活習慣病の予防法となります。

*厚生労働省生活習慣病対策室「厚生労働省のメタボ対策について」<クリックで拡大>
具体的には、生活習慣病の原因をより除いていくことです。
上の図の「レベル1」にあるのが、以下のような生活習慣病の要因です。
・暴飲暴食
・味の濃い料理や揚げ物、炒め物の食べ過ぎ
・エスカレーターやエレベーター、タクシーの利用やデスクワークが多く、運動習慣がない
・喫煙
・ストレスの多い環境
これらが、徐々に体を蝕みます。このような原因となる要素を取り除いていくことが、脳血管疾患を含む生活習慣病の予防になります。
もし、原因を取り除かず、同じ生活を続けていると、いつしか「レベル2」の肥満や高血圧、高血糖、高脂血になってしまうことも。これは、健康診断や人間ドックで「軽度の異常」や「要経過観察」となるレベルです。
この段階で生活習慣を改めることが大切といえます。病気にまで進展させずに回復することができるからです。
しかし、これを見過ごして生活を改めないと、「レベル3」の肥満症、糖尿病、高血圧症、高脂血症となり、多くの場合、服薬等による治療が必要になります。
とはいえ、この段階で生活を見直し、きちんと治療を受ければ、病気から回復できる場合もあります。回復が難しくても、それ以上悪化させずに病気と付き合いながら、それまでと大きく変わらない生活をすることもできます。
一方、「レベル3」の段階に至っても、なお生活習慣を変えずに暮らし続けていると、つらい病気を引き起こしかねません。それが、「レベル4」の心筋梗塞、狭心症、脳出血、脳梗塞、糖尿病による失明や人工透析などです。
病気となった結果、「レベル5」にあるように生活に支障が出てきたり、時には認知症となったりすることで、ついには要介護状態になってしまうかもしれません。
高齢者だけでなく、若いうちから生活習慣を改める
この図は「レベル1」を上流、「レベル5」を滝に向かう下流として描かれています。つまり、できるだけ上流で生活習慣を見直し、身体状況の悪化を食い止めることが重要だということです。
下流になればなるほど流れは急になり、生活を改め、体を回復させるのが難しくなることを、この図は示しているのです。
脳血管性認知症は、この図で言えば「レベル5」に当たります。「レベル1」からの悪化を防げず、改善することができなかった結果が、「レベル5」の状態です。ここに至ってしまうと、生活の質が大きく低下してしまいます。
医学が進歩し、治せる病気は増えてきました。しかし、脳出血や脳梗塞、進行した糖尿病や心臓疾患などは、元通りに治すことが難しい病気です。悪化させると、認知症の原因となることもありますし、生活が一変してしまう場合もあります。
高齢者だけでなく若いうちから、ぜひとも生活習慣を改め、日常生活に制限のない健康寿命の延伸、若年性認知症を含む認知症予防をしていきたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>