頼れない・頼らない高齢者たち
「日頃のちょっとした手助け」が必要なとき。
ひとりで暮らす65歳以上の男女に頼れる人がいるかどうかを聞いたところ、「いる」と答えたのは女性が約8割だったのに対し、男性は5割強。一方、「いない」と答えた女性は1割弱なのに、男性は約3割に上ったことが、国立社会保障・人口問題研究所の「生活と支え合いに関する調査」によって明らかになりました(*)。
また、「(日頃のちょっとした手助けでは)人に頼らない」という回答が、男女とも1割強いることも注目に値します。
「頼りたくても頼る相手がいない」という人と、「人に頼りたくない」という人がいるということですね。
では、一人暮らしの高齢者にとっての「頼れる人」とは誰でしょうか。男女とも、多い順に「家族・親族」「友人・知人」「近所の人」となっています。
このうち、「近所の人」という回答は女性の場合は約3割なのに、男性は1割強に留まっています。男性は近隣に助けを求めず、自分で何とかしようとしたり、我慢したりする人が多いのかもしれません。
これが「子ども以外の介護や看病で頼れる人」の有無となると、一人暮らしの高齢男性は、「いない」という回答が約6割と、ますます多くなります。何かあった時、いったいどうするのかと心配になります。
一方、女性は「いる」も「いない」も4割強です。女性も、介護や看病になると、周囲に頼ることができる人ばかりではないようですね。
新聞には高齢の一人暮らしの男性について、「孤立の傾向」と書かれていましたが、必ずしも男性だけが孤立傾向とは言い切れないように思いました。
地域包括ケアシステムの「互助」が機能していない結果に
「介護や看病」で頼る相手についての回答では、男女とも「家族・親族」が一番多いのは「日頃のちょっとした手助け」と変わりません。しかし二番目は、男性は「民生委員・福祉の人」、女性は「友人・知人」と「民生委員・福祉の人」との回答です。
男女とも、「近所の人」に頼るという回答はわずかでした。女性はちょっとしたことなら近隣に頼れても、介護などでは頼れないようです。
また、介護や看病も人に頼りたくないという人が、男女とも1割強いました。何があっても、誰にも頼らずに暮らしていきたいということでしょうか。
今は、地域で暮らし続けていくことを支える仕組み、「地域包括ケアシステム」の構築が進められています。
この「地域包括ケアシステム」をうまく機能させるには、自助、互助、共助、公助についての理解と、それぞれの連携が大切だといわれています。ちなみに、それぞれについて簡単に説明すると、下記の通りです。
自助:自分で自分の生活課題の解決に努めること
互助:近隣で自発的に互いに助け合うこと
共助:医療保険や介護保険などの制度化された社会保障のこと
公助:生活保護や虐待対策など、公的な社会福祉のこと
「近所に頼る」というのは、ここでいう「互助」に当たります。しかし、「日頃のちょっとした手助け」も「介護や看病」も、人に頼らないという人が男女とも1割以上いることを含めて考えると、実は「互助」は高齢の男女とも、必ずしも浸透していないのかもしれません。
健康で長生きするなら「人付き合い」も大切
この調査では、もう一つ気になるデータがありました。
65歳以上の高齢者について、会話の頻度別に「長生きすることは良いことだと思う」と考える人の割合を見たデータです。この質問での会話とは、「人との挨拶程度の会話や世間話」を指しています。
下記のグラフを見ると、会話の頻度と「長生きが良いことだと思う」かどうかは、関係があるように見えます。
この調査では、会話の頻度は男女ともに60歳以上の年齢が高い層で、毎日会話する人の割合が低くなっています。年齢を重ねたら、意識的に毎日、誰かと話をできる環境に身を置くことを、考えた方がいいのかもしれません。
▼65歳以上の高齢者の会話頻度と「長生きすることは良いことだと思う」割合(%)

*国立社会保障・人口問題研究所「2017年 社会保障・人口問題基本調査 生活と支え合いに関する調査」より
「友だちの数で寿命はきまる」というタイトルの本もありますが、実際、友だちの数が多い人ほど長生きするという研究データはたくさん示されています。
健康づくりのために運動をする人は多いと思います。しかし、実は、運動以上に健康長寿に効果的なのは、人との付き合いなのです。
健康長寿を目指すのでれば、誰とも話さず黙々と運動をするよりも、仲間とおしゃべりをしながら運動をすることを心がけるほうがよさそうです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*高齢独居男性「頼る人いない」3割 人口問題研調べ、孤立の傾向(日本経済新聞 2018年8月14日)