「終活」は50歳から取りかかる
人生の締めくくりに向けた準備を表す「終活」という言葉は、今ではすっかり定着したように思います。家族や友人に伝えるべきことを書き記す「エンディングノート」も、書き方セミナーが開かれるほど、知られるようになりました。
しかし、終活はいつから始めればいいのでしょうか? 親の終活は本人任せでいいのでしょうか? ちょっと考えてしまいますよね。
人生を締めくくっていくためには、持っている物も、抱えてきた様々な思いもいろいろと整理する必要があります。長年ため込んできた物や思いを整理するのは、実はかなりの気力と根気が必要です。
そのため、終活は50歳から少しずつ取りかかった方がいいという意見もあります(*1)。
自分自身のことをちょっと考えてみてください。銀行の口座はいくつあり、どの印鑑を使っているのか。株式はどこの証券会社に預けてあるのか。生命保険や損害保険の証書はどこにあるのか。借金はあるのか。住宅ローンはどれぐらい残っているのか。
自分ではよくわかっていても、子はおろか、配偶者もよく把握していない場合もあるのではないでしょうか。
そもそも、万一のことがあったとき、友人関係は誰と誰に伝えればいいのか。その連絡先は?
縁起でもないようですが、今この瞬間に自分が命を落としたとしても家族が立ち往生しないか、50歳を過ぎたら、夫婦で互いに重要なことを伝え合っておく方がいいかもしれません。
デジタル遺品といわれるSNS関係の扱いについても、対応を確認しておくことをお勧めします。
親が通帳を手放したがらない、または認知機能が低下していたときは?
一方、親の「終活」は、親の気持ちもあるので子が簡単に口を出せない場合もあります。それでも、もしもの時、預金通帳や銀行印、家の権利証、株式、債券等々、重要な物の在りかがわからないと本当に困ってしまいます。
その「もしも」は、必ずしも命に関わる場合だけではありません。認知機能の低下で本人が忘れてしまい、見つけ出せなくなることも、多々あります。直接、教えてくれなくてもいいから、もしもの時にわかるようにしておいてほしいということだけは、きちんと親に伝えておきたいものです。
また、認知機能の低下が見られる場合、資産の管理は成年後見人などに任せることを検討しましょう。認知症がある親に通帳の管理を任せていたら、数千万円の資産がいつの間にかなくなり、本人も覚えていない、という相談を受けたことがあります。
これは、もう手の打ちようがありません。そうしたことが起こらないよう、できれば早めに対応しておきましょう。
ただ、不安が強いタイプの人は、通帳等を手放したがらないことがよくあります。時間をかけて親を説得し、日常生活費を管理する普通預金の通帳の管理だけを本人に任せて、定期預金の通帳は預かることにしたという人もいます。
しかし、通帳は全て自分で持っていたいと、どうしても渡すのを嫌がる親もいます。そんなときは、無理やり取り上げるようなことは避けましょう。
資産はあくまでも親本人の物。それが失われる可能性があっても、親の尊厳を重視し、子は腹をくくる覚悟が必要な場合もあります。
とはいえ、やはり可能であれば、親が元気なうちに資産関係の重要書類は一緒に整理しておきたいですね。
離れて暮らす親のもとに帰省した時、預金通帳などの在りかを親自身がよく分からなくなっていると聞き、整理しようとして大仕事になったという新聞記者の体験談は身につまされるものがあります(*2)。
それでも、親本人が存命であれば、話を聞きながら見つけ出せるのではないでしょうか。少し大変だったとしても、そうしたやりとりも、おそらくは後々いい思い出になることと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 終活は50歳から 人生の最期早めに備え(日本経済新聞 2018年7月12日)
*2 身じまい自習室/5 単身世帯のお金整理 「いま」やれば楽になる/東京(毎日新聞 2018年6月15日)