介護保険でペットの世話は頼めない
医療の進歩により、ヒトの平均寿命が延び続ける一方で、ペットも長寿化が進んでいます。感染症対策などが進み、この25年の間にイヌの寿命は1.5倍、ネコは2.3倍に伸びたと言われています。
2017年のペットフード協会の調査によると、平均寿命は、イヌが約14歳、ネコが約15歳です。
イヌは高齢になると、人間同様、認知症になることもあります。一晩中鳴き続けたり、失禁が多くなったり、食事を食べられなくなったり。愛犬の介護で苦労している飼い主は、実はけっこういるのです。
自分が元気な間は、家族同様に過ごしてきたペットを最後まで面倒みたい、ケアしたいという方が多いことでしょう。しかし、自分自身が要介護状態になったら、ペットとの生活も行き詰まってしまいます。
介護保険の訪問介護利用者には、イヌを散歩に連れて行ってほしいと、ホームヘルパーに頼む人もいます。しかし、介護保険は生活上の困難がある人の自立を支援するためのサービス。犬を散歩に連れて行くことはできません。
どうしても頼みたい場合は、自費で依頼することになります。
前出のペットフード協会の調査では、「あったらいいと思う飼育サービス」として、「高齢で飼育不可能な場合の受入施設提供サービス」や「飼育が不可能な場合の引き取り手斡旋サービス」、「老化したペットの世話対応サービス」が挙げられていました。
ペットのための介護施設や訪問サービスも
ペットのケアサービスのニーズの高まりを受けて、ペットのための介護施設や訪問看護・介護サービス、リハビリや在宅医療を提供するサービスも増えつつあります(*1、2)。
ペット用の介護施設では、自分では世話をできなくなった飼い主に代わって最後まで面倒を見てくれます。訪問看護・介護サービスでは、自宅を訪れ、散歩や給餌、リハビリなどを行います。
訪問サービスでは、一時的な利用を想定していたものの、事業を開始してみたら、週4日以上の利用も多いとのこと。利用者は、やはりペットの日常的なケアが難しくなっている、高齢の飼い主が多いそうです。
こうしたサービスが少なかった頃、自分で世話ができなくなると、やむを得ずペットを鎖につないだままにしたり、手放したりすることもあったことと思います。
長年共に過ごしてきたペットを十分に世話できず、手放すことは、高齢者にとって家族を失うようなもの。生きる意欲を低下させてしまうこともあります。
こうしたサービスを利用することによって、それまで通り自宅で共に暮らし続けられたり、安心して託せる施設で暮らすペットに会いに行けたりする。それは、ペットのQOL(生活の質)も、飼い主のQOLも高めるに違いありません。
世話ができなくなったペットはどうなる?
最近では、有料老人ホームや特別養護老人ホーム、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、ヒトのための介護施設の中にも、ペットと共に入居できるところが出てきました。
しかし、飼い主である入居者が亡くなったとき、残されたペットをどうするのか。あるいは、他の入居者に動物アレルギーを持つ人がいる場合はどうするのか。そうした、簡単に解決できない問題もあり、なかなか増えていかないのが現状です。
長寿といわれるカメやオウムなどは、数十年生きることもあります。そうしたペットは、40代、50代で飼い始めても、自分で世話ができないときが来るかもしれません。
そうした可能性を考慮し、将来、新たな飼い主に引き取ってもらいやすい飼い方について教える教室もあります。
ペットは、ヒトを癒やしてくれる大切なパートナーです。だからこそヒトも、自分が世話をできなくなってもペットが幸せな一生を送れるよう、考えていきたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 ペット長寿化、施設でみとり(毎日新聞 2018年4月3日)
*2 犬と猫の介護を支援 飼い主の心に寄り添い(毎日新聞 2018年1月21日)