裁判官の「認知症への理解度」で、有罪・無罪が決まる
2012年には、65歳以上の約7人に1人だった認知症を持つ高齢者は、2025年には約5人に1人の割合になると言われています。身内や友人に認知症を持つ人がいるのが、ごく当たり前の時代が近づいています。
近年、認知症を持つ人たちが自発的に発言し、この病気を持って生きる姿を見せることで、世間の認知症への理解も少しずつ進んでいるように思います。
しかしその理解にはまだばらつきがあり、理解が進んでいる人と、今も理解が乏しい人が混在しています。
それは、一般社会だけのことではありません。市民を守る立場にある公職の中でも、認知症への理解度によって、対応には違いが出るようです。
万引きで逮捕された女性に、認知症による心神喪失の可能性があるかどうか。その精神鑑定を行うか否かの判断に、地方裁判所の裁判官によって差があることが、報道されました(*)。
裁判官や検察官の認知症への理解度によって、結果的に刑罰が違ってくるのは大きな問題です。しかし、現状では、認知症に詳しい裁判官や検察官は、まだ多くないと聞きます。
また、起訴された人を守る弁護士の方も、やはり認知症に詳しい人は少ないという実状があります。
ですが、非常にまれなケースではありますが、臨床心理士をサポートスタッフとして加え、認知症についての情報提供を受けながら、弁護方針を検討する弁護士もいます。
認知症を持つ人がさらに増えていくこれからは、検察官や裁判官も、臨床心理士や精神科医に情報提供を求め、認知症について一定の理解をした上で、裁判に臨んでほしいものです。
認知症を持つ人は「困った人」ではなく「困っている人」
司法ほどの重大な影響はありませんが、認知症を持つ人と接する可能性が高い警察官にも、やはり認知症についての知識、理解が求められています。
警視庁は警察官・職員への「認知症サポーター養成講座」の受講を義務化。2015年度中に約4万6000人の警察官・職員に受講させています。
静岡県藤枝市では、同じく2015年に警察学校で「認知症サポーター養成講座」を、大阪府門真市では、2017年に改正道路交通法の施行を受け、運転免許試験場で120人の職員を対象に、「認知症サポーター養成講座」を開催しています。
警察官の認知症への理解を拡げようという姿勢が感じられます。
認知症で「困った行動」をとっているように見える人は、「困った行動」をしているわけではなく、どうしていいか分からず「困っている人」です。
警察官だけでなく、多くの方に「認知症サポーター養成講座」を受講していただき、この視点・発想の転換をしてもらえるようになればと思います。
ただ、養成講座を受講すればそれで認知症のことを理解できるかというと、そうではありません。養成講座は認知症のことを知る入口です。この入口から入っていくことで、認知症を持つ人と接することを敬遠せず、自然に触れあえるようになれるといいですね。
そして触れあう中で、さらに認知症についての理解を深め、「認知症を持つ人は何に困っているのか」「自分に何ができるのか」という視点で、考えられる人が増えていけばと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
* 精神鑑定実施、地裁で差 高知拒否、大阪は自ら提案(毎日新聞 2018年1月13日)