不慮の事故で亡くなった方の70%以上を65歳以上の方が占めている—–厚生労働省の『不慮の事故死亡統計』が物語る数字です。事故の予防という観点からその原因に注目してみると、意外なことに、そうした事故の半数以上は家庭内で起きているというのですが……
<文 佐藤大成>
交通事故よりも多い不慮の事故とは?

いちばん安全な場所は自宅—–ふだん漠然とそう考えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。雨や風、車や自転車の往来といった目に見える危険を遠ざけてくれる自宅はたしかに信頼の置ける“シェルター”ではあるのですが—–実際はどうなのでしょうか?
厚生労働省がまとめている『不慮の事故死亡統計』という全国規模のデータがあります。なんからの不慮の事故に遭遇して亡くなった方の年齢や事故の種類•原因などを年ごとに集計、分析したものですが、これを見ると、事故の傾向や特徴が見えてきます。
平成20年の同統計によると、不慮の事故で亡くなった方の総数は全国で3万8153人。このうち65歳以上の方は、2万7664人。全体の約73%にあたり、他の年齢層にくらべ比率が高いことがわかります。
事故の種類に目を移すと、分類項目の最初に挙げられているのは<交通事故>。総数は7499人。このうち65歳以上の方は約50%(3757人)と、やはり高齢の方ほど遭遇している要注意の事故には違いなのですが、不慮の事故全体に占める項目としての割合は約20%と、意外に高くはないという印象を受けます。
むしろ、目を引くのは、全体の約80%を占めるその他の事故。<交通事故>以外に項目化されている事故は<転倒や転落>、<おぼれ>、<窒息>、<火災>、<中毒>と5つあるのですが、特徴的なことは、どの事故も、戸外、屋内を問わず起きる可能性があること。つまり、家や施設などで一日の大半を過ごす方にも十分に起こりうる事故が不慮の事故の大半を占めているのです。
こうした事故で亡くなった方の総数は2万5400人。全体の約67%(残る約13%はその他の要因)は決して小さな数字ではありません。
自宅ははたして安全なところなのか?—–そんな疑問が浮かんできます。
自宅だから安全、安心とはいえない

統計資料をもうひとつ見てみましょう。『病院危害情報からみた高齢者の家庭内事故』。こちらは独立行政法人の国民生活センターがまとめているもので、全国20ヶ所にある協力病院から得た事故情報を分析したもの。集計期間は2003年度から2007年度までの5年間。元データは20歳以上の方を対象にしていますが、タイトルにあるように、この資料ではとくに高齢の方の家庭内事故に焦点をあてています。
集計された事故の総数は2万1860件。うち65歳以上の方の事故件数は6569件。全体に占める割合は約30%と、事故で亡くなった方に注目した先の統計に比べると、比率は低くなっていますが、2つの統計資料をあわせて考えると、事故件数は他の年齢層とさほど変わらなくとも、年齢があがるほど事故に遭遇した際には重傷になりやすいのではと推察できます。
事故の発生場所ではどうでしょうか。20歳以上65歳未満では全体の53.4%、65歳以上になると63.3%を占めるひときわ目を引く項目があります——それが<住宅(敷地内を含む)>。続く<道路>、<他の建物>はともに10%前後ですから、比べると数値の大きさが実感できます。
これらの資料が語ることは明確です。「自宅だから安全、安心とはいえない。むしろ自宅は戸外にくらべ事故に遭遇しやすい場所でもある」ということなのです。在宅介護に携わっている家族の方にはぜひ注目していただきたいデータです。
不慮の事故から家族を守るためには、まずは自宅や自宅周辺にこそ目を向けるべき、ということは確かなようです。
☆
次回は、自宅や自宅周辺で起きる事故の種類や要因について、より詳しく見ていくことにします。