
特に男性は「他者との交流」が要介護度や寿命に影響しやすい
インターネットのある検索サイトで「認知症予防」を検索すると、約165万件ものサイトがヒットします。
運動、脳トレ、食事、サプリ、生活習慣…。さまざまな切り口から認知症の予防法が紹介されていますが、科学的に根拠がある(エビデンスがある)と認められているのは、運動だけだといわれてきました。
しかし2017年11月には、「社会的つながり」の多い高齢者は、認知症の発症リスクが低いことが明らかになったという報道がありました(*)。
これは2003年から9年間、愛知県にある国立長寿医療研究センターが、約1万4000人の高齢者の健康状態を追跡した研究から明らかにしたことです。
他者との交流が認知症の予防につながることは、これまで他の研究でも示唆されていました。今回の研究では、複数の社会的つながりを持つ人の方が、より認知症になりにくいことが明らかになっています。
社会的つながりの多さは、大腸ガン発生・死亡リスクや、要介護状態になるリスクを引き下げることも指摘されています。
特に中高年男性では、配偶者のある人はない人に比べて、平均余命が約10年長く、心疾患・脳血管疾患での死亡率、自殺死亡率も低いことが明らかになっています。
長生きをしたい、認知症になるのは避けたいと考えている男性は、仕事を離れたあとも、意識して社会的つながりを維持し、増やしていくよう努めたいものです。
「ごみ屋敷」は孤独から生まれることも
人は社会の中で生きていく存在です。高度情報社会となり、人と人とのつながりが薄れたといっても、まったく人と関わらずに生きていくことはできません。
そして、その関わりの中で大切なのが、誰かを必要とし、また、自分が必要とされる関係性があることです。
もし誰からも気に掛けてもらえず、必要とされないなら、まるで自分が存在していないかのように感じられるのではないでしょうか。
アイデンティティ(自分が自分であるという感覚、認識)を保ちにくくなり、心理的に不安定になってしまうかもしれません。
「ごみ屋敷」と呼ばれる、家や敷地からあふれるほどものをため込んだ家の住人は、周囲とのつながりが乏しい人が多いといわれています。
人とのつながりがない不安を、もので自分を取り巻くことで軽減しようとしているのでしょうか。あるいは、人の温もりの代わりに、ものに取り囲まれることであたたかさを感じたいのかもしれません。
支援の手が入り、ものを片付けても、周囲とのつながりがないままだと再びものをため込んでしまうことが多いそうです。
しかし、地域住民が一緒に支援し、そこから地域でのつながりが生まれると、再びものをため込むようなことにはならないと聞きます。見守ってくれる人、支えてくれる人がいるという安心感から、もうものをためこまなくても不安にならないのでしょう。
ごみ屋敷の話は少し極端かもしれません。しかし、年を重ねていくにつれて、どうしても人とのつながりは減っていきがちです。
楽しい高齢期を過ごすことを考えたら、早くから意識して人とのつながりを保つよう心がける方がよいかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*友人と交流で認知症少なく(日本経済新聞 2017年11月24日)