気軽な受診によって医療費が増大?
具合が悪くなったときに、病院を受診し、診察を受けて薬を処方してもらい、薬局で処方薬を受け取って帰る。そんなふうに健康保険(公的医療保険)を利用した経験は、誰もがあることでしょう。
ちょっと体に不調を感じたときにはすぐに受診して早く治したいと考える人、市販薬より処方薬の方がよく効くから、あるいは、自己負担が少なくて済むからと、頻繁に医療機関を受診する人もいるかもしれません。
国民皆保険制度の日本では、健康保険の被保険者は元気なうちから決められた保険料を支払っています。保険料を支払っているのだから、具合が悪いときに受診するのは当然の権利ともいえます。
しかし今、気軽に受診することが、医療費を増大させているのではないかという指摘があるのです(*)。
実際の医療費は窓口負担額の10倍!
国民一人あたりの年間医療費は、被用者保険(雇用されている人が加入している公的医療保険)では、2005年度に約13万円だったものがじわじわと増えて、2014年度には約16万円になっています。
75歳以上では、約82万円が約93万円に。ずいぶん増えていますよね。
記事によれば、受診した人が医療機関の窓口で支払う金額は、医療費全体の1割程度とのこと。残りの約9割については、約4割が国や地方自治体による公費、約5割が事業者と被保険者が納める保険料から支払われているのです。
しかし、受診した際、自分たちが支払った金額の10倍ものお金がかかっていることを意識している人は、あまり多くないのではないでしょうか。
医療費の増大に伴い、私たちが支払っている健康保険の保険料率は、この5年で2~3%引き上げられているとのこと。
医療費は、2025年には2015年の約1.5倍にまで増大すると推計されています。これはGDP(国内総生産)の伸び率を上回ります。
そうなったら保険料の高騰も心配ですが、そもそも国民皆保険制度は維持できるのか? 不安になってきます。
▼医療費の将来推計

*厚生労働省「医療保険制度改革の背景と方向性」<クリックで拡大>
医療機関に過度に頼らないよう心がける
何しろ、日本という国は、大変な借金大国です。
歳入の1/3が借金(国債の発行)であり、歳出の1/4をその借金の返済(国債償還費)と利息の支払(利払い費等)が占めています。まさに“自転車操業”です。
借金の残高は、対GDP比約230%(2016年)。全国民が2年以上、飲まず食わずで働いても返せない金額です。
それも、2001年には約144%だったのに、この15年で1年分のGDPぐらい増えています。なぜここまで手をこまねいて過ごしてしまったのか、と思います。
対GDP比230%という債務残高は、財政危機に陥ったギリシャの200%をも上回り、先進国の中では突出して高い比率です。
国債を発行し続けるということは、借金をし続けるということ。つまりは、財政負担を先送りしているに過ぎません。
現役世代が自分たちの今の生活を維持できればいいと考えて、次世代にツケを回しているようなものです。
話を医療費に戻しましょう。冒頭で、“保険料を支払っているのだから保険の給付を受けるのは当然の権利”だと書きました。
しかし、この危機的な国家財政のこと、次世代の子どもや孫のことを考えたら、無自覚に権利を行使してはいけない気がしてきませんか?
記事によれば、若手の国会議員の中からは、「小さなリスクは自分で対応すべき」という声が上がっているとのこと。不調があったら何でも受診するのではなく、本当に医師の診察と薬の処方が必要かをよく考えてから受診するということですね。
たとえば医師の中にも、インフルエンザは脳症になるような重篤なケース以外は、水分をたっぷり取り、温かくして寝ているのが一番だからと、自分や家族がかかったときには薬を飲まず寝るだけという人もいます。
そもそも、バランスの良い食事や適度な運動を心がけ、病気になりにくい体作りに努めることも大切です。一人ひとりがそんな心がけをしていくだけでも、医療費は少しずつ削減できるのかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*財政 病院に行く私が悪い? 気軽な通院、皆の負担に(日本経済新聞 2017年5月3日)