いつになってもなくならない、振り込め詐欺などの被害。実は、「自分は被害に遭わないと思う」と考えている人は、年齢が高くなるほど多いことが内閣府の調査で明らかになりました(*)。
70歳以上では、5割の人が自分は被害に遭わないと思っているというのです。これが、高齢者が詐欺に遭いやすい一因ではないかとも感じました。
人は「自分は安全」と思い込みやすいくせがある
一般に、人は、「自分は安全だ」「安全な生活は何時までも続く」という、根拠のない思い込みを持ってしまいがちです。
東日本大震災では、これまで津波はここまでは来なかったから安全だという思い込みが、多くの悲劇を招いたともいわれています。津波が来なかったこれまでの地震と、東日本大震災の時の地震の違いを合理的に判断するより、「安全は保たれる」という思い込みの方が勝ってしまったのかもしれません。
このように、安全や正常な状態が常に保たれると思い込む心理状態を「正常性バイアス」といいます。
過去、事故や事件に遭った経験がある人は、「また何か起こるのではないか」と用心する心を持つようになります。何か持病がある方は、不調があるとすぐに対処するので長生きするという、「一病息災」にも通じることです。
しかし、長年、平穏に暮らしてきた人は、その暮らしが当たり前だと考えるようになり、自分が事件や事故に巻き込まれることをあまり考えなくなります。
高齢者に「自分は詐欺には遭わない」と思う人が多いのは、それだけ長年、何事もなく穏やかに暮らしてきた人が多いとも言えます。
振り込め詐欺などの犯人は、そうした“事件慣れ”していない人をターゲットにしているのです。
親御さんがこうした「正常性バイアス」の強い方の場合、一度、抜き打ちで振り込め詐欺を想定した訓練をしてみるのもいいかもしれません。
たとえば、息子さん本人ではなく、甥御さんなどに息子さんのフリをして振り込め詐欺を装ってもらうのです。
きちんと対処できれば問題はないでしょう。しかし、詐欺師の言いなりになるようなら、電話機を迷惑電話対応に変更したり、常時、留守番電話にしたりするといった検討が必要です。
詐欺に遭った高齢者を責めるのはやめてほしい
もう一つ、お伝えしたいのは、どれだけ注意していても人はだまされることがあるということです。人間の生活において、何事も「100%安全」ということはないのです。
「用心していた」「自分は大丈夫だと思っていた」、どちらにしても、だまされてしまったとき、その人はどんな気持ちになるでしょうか。情けなく、自分が腹立たしく、泣きたい気持ちになるでしょう。家族に顔向けができないと思う人もいるかもしれません。
そんなとき、周囲から追い打ちをかけるように、「あれほど注意しろといったのに」「世間でもこれだけ話題になっているのになぜだまされた」と責め立てられたら、どうでしょうか。
お金を失い、周囲からの信頼も失い、非難され、もう生きているのがつらいと思ってしまう場合もあります。実際、振り込め詐欺被害にあった高齢者には、自殺者が何人も出ています。
万一、身近な人がこうした悪質な詐欺の被害に遭ったときには、決して責めないでください。お金を失ったことで、命まで失うような悲劇は絶対に避けなくてはなりません。
詐欺に遭ったことを誰よりも恥じて、傷ついて、後悔しているのは本人なのです。そんなときこそ、「大丈夫だよ」と、温かい声をかける家族、友人であっていただきたいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*「特殊詐欺遭わぬ」高齢者ほど過信 内閣府、70歳以上で5割(日本経済新聞 2017年3月11日)