2017年3月、改正道路交通法が施行されます。これにより、信号無視などの違反行為を犯したり、認知機能の低下が疑われたりする75歳以上のドライバーへの対応が厳しくなります。免許更新時や交通違反時に「認知機能検査」を受けて、認知症の恐れがあるとされた場合は、「臨時適性検査」を受けるか、医師の診断書を提出しなくてはなりません。そこで認知症と診断されたら、運転免許は取り消されます(*1)。
高齢ドライバーの交通事故は20代より少ない?
そもそも、高齢ドライバーへの対応が厳しくなった背景には、高齢ドライバーによる交通事故の増加があります。しかし、事故件数の増加だけに注目が集まり、また、頻回に高齢ドライバーの事故が報道されることで、実態と異なる誤った印象を与えているという指摘があります。実は、高齢ドライバーによる交通事故は、20代より少ないというのです(*2)。
記事では、交通事故のうち、死亡事故を起こす年代別の割合を見ています。そして、「確かに80歳以上の死亡事故の危険性は高いが、2015年は16~19歳の方が上回っていた」「60代の方が20代より死亡事故を起こしにくい」と指摘。死亡事故全件数では、「20代や40代による事故が多く、80歳以上が起こす死亡事故は少ない」のだそうです。
もちろん、全件数で見れば、運転者数自体が少ない80歳以上の事故が少ないのは、当然のことです。80歳以上のドライバーによる死亡事故の割合がふえているのは事実ですから、この年代のドライバーへの対応を厳しくした道路交通法の改正は、妥当だと言えます。しかし一方で、高齢者と呼ばれる65歳以上のドライバーが事故を起こすたびに、「また高齢者が死亡事故」という報道が繰り返されていると、実態以上に高齢ドライバーの運転が危険なように思えてしまいそうです。そのあたりについては、私たちはもう少し冷静に受け止める必要があるかもしれません。
きれいな引き際を、高齢者は自分自身で考えることが大切
高齢ドライバーの運転技術を補うものとして期待される、自動ブレーキや、アクセルとブレーキの踏み間違いへの警告など、自動車の最新装置。*1の新聞記事では、これらの装置についても触れています。こうした最新装置には限界があるので過信しないように、とのこと。実際、独立行政法人自動車事故対策機構による、被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)機能のテストでは、メーカー、車種によっては、あまり減速せずに追突する映像が公開されています(*3)。これを見ると、あまり当てにしてはいけないと感じますね。
結局、今のところ自動車の安全運転は、ドライバーの技術と認知機能の発揮によって実現していくしかないようです。ですが、年齢を重ねれば、どれほど運転技術に優れていた人も、反射神経や認知機能は徐々に衰えていくものです。そのことには、高齢者本人でも気づく瞬間があるはず。気づいても、目を背けたくなるかもしません。しかし、運転に自信がある高齢者ほど、周囲から指摘される以前に、きれいな引き際を考えられるとよいのではと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 高齢ドライバーの重大事故 認知症チェックに課題(毎日新聞 2016年12月5日)
*2 高齢ドライバーの事故は20代より少ない 意外と知らないデータの真実(Yahoo!ニュース 2016年11月20日)
*3 予防安全性能アセスメント