高齢になると、病気になったり、けがをしたりすることがふえますよね。脳卒中や骨折などで身体に大きなダメージを負ってしまったら、治療が終わったあと、適切なリハビリテーションが必要になります。受けたリハビリの善し悪しによって回復の程度は変わり、その後の生活の質が違ってくる場合もあります。どこで、どのようなタイミングで、どのようなリハビリを受けるべきか。適切なリハビリを受けられる施設を選択することが重要だといわれています(*)。
専門職から受けるリハビリだけでは、十分回復しない場合も
記事にもありますが、リハビリは大きく3つの段階に分かれています。病気やけがのあとすぐに行う急性期のリハビリ。原則として最長180日間、日常生活に戻るための回復期のリハビリ。そして、自宅などで生活をしながら身体の機能を維持向上させる生活期(維持期)のリハビリです。
急性期、回復期のリハビリは医療保険で行われ、病院で提供されます。一方、生活期のリハビリは、原則として通所リハビリ(デイケア)、訪問リハビリ、介護老人保健施設など、介護保険で提供されることとなっています。
そもそも、リハビリテーションと聞いたとき、みなさんはどのようなことをイメージするでしょうか。平行棒につかまって歩行訓練をしたり、段差を上り下りしたりするなど、専門職の指導による機能訓練をイメージする方が多いかもしれません。しかし、こうした専門職の指導による機能訓練は、医療保険では最長1人1日3時間。介護保険の場合、短ければ20分。意外に短いとは思いませんか? 専門職のリハビリを受けているから、それで十分と、それ以外の時間をずっとベッド上で過ごす。そんな方が少なくありません。安全を重視する病院という環境では、それを当然と考えている病院もあります。しかし、それでは、機能の十分な回復が難しい場合もあるのです。
生活の中には、リハビリの要素がたくさんある
では、どうすればいいでしょうか。普段の暮らしの中でリハビリを行えばいいのです。身体がうまく動かせないからと、ベッドに横になったきり、車イスに座ったきりでは、機能の速やかな回復は望めません。普段の生活の中には、リハビリの要素がたくさん含まれています。たとえば、トイレに行く動作。ベッドから起き上がり、部屋を横切って廊下を歩きトイレに行く。脳卒中でマヒがあったり、骨折のあとだったりする人は、1日に何度もこの動作を繰り返すだけで、リハビリ効果があります。
それを、痛みがあるから、時間がかかるからと、いつも車いすを使って移動していては機能の回復がなかなか進みません。専門職の指導によるリハビリは、ピアノの先生にレッスンを受けているようなもの。先生に言われたポイントに気をつけながら、自分で練習しなければ上達しないのと同じなのです。
どこまでのリハビリが必要かの見極めも大切
実際、日々の生活でリハビリを続け、回復した人は少なくありません。病院で「この人はもう歩けるようにはならない」と言われた人でも、退院後、適切な介護を受けて歩けるようになった例はたくさんあります。毎日、トイレや食事のたびに起き上がり、歩いて移動するなど、コツコツと回復に努めたからです。それを続けるには、本人だけでなく、その都度介助する家族や介護職の援助が必要です。無理をして歩いて転倒したくない、させたくないという思いも、当然、あるでしょう。それでも、そのリスクを引き受けてリハビリを続けなければ、回復を望みにくいのも事実なのです。
リハビリは、痛みを伴うなど本人にはつらいものです。根気よくリハビリを続けていけるよう、家族は上手に励まし、支えていくことが大切です。だからといって、本人を置き去りにして家族が一方的に回復を望み、リハビリを強く勧めすぎるのも望ましいことではありません。本人がどこまでリハビリでの回復を望んでいるのか。そして、どこまで頑張る必要があるのか。支援する側は、そのバランスも十分に考えることが必要でしょう。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*リハビリ施設、入念に選ぶ 情報集め相談室も利用を(日本経済新聞 2016年8月4日)