高齢者が関わる交通事故が後を絶ちません。神奈川県では、事故総数が減り続けているのに高齢者が関わる事故はそれほど減らず、事故全体に占める割合は増え続けています(*1)。この傾向は東京都でも同じです(*2)。
高齢者の運転による事故の原因は?
そもそも、高齢者の事故はなぜ起きているのでしょうか。高齢者が運転者の場合では、主な原因として、以下のようなことが考えられます。
1.判断力の低下
たとえば、右折時に直進車のスピードを見誤り、無理に走行して衝突してしまう。歩行者が道を渡っているのに、「自分の車が通るまでには渡りきるだろう」とスピードを緩めずに走行してぶつかってしまう、など。
2.注意力の低下
たとえば、変わりかけの信号を急いで走行しようとして、歩行者を見落とす。複数のことに同時に注意を払うのが難しくなる、など。
3.とっさの反応の悪さ
たとえば、危ない、と思ったときに、ブレーキをかけるまでの反応時間が長い。ブレーキとアクセルを踏み間違える、など。
4.身体の機能の低下
たとえば、視野が狭くなり、歩行者や信号を見落とす。動体視力が衰えて近づいてきたものに気づくのが遅れる、など。また、信号無視を繰り返す高齢者の視野検査をしたら、緑内障で視野が欠けて信号が見えない状態だったということも。
「自分の運転は大丈夫」という過信が最も問題
また、一度も事故を起こしたことがない高齢者は、「これまで事故を起こさなかったのだから、これからも事故は起こらないだろう」と考えがちです。しかし実際には様々な能力低下等があり、事故リスクは高まっている可能性が高いのです。そういう意味では、高齢者ドライバーで最も問題なのは、「自分の運転には何も問題はない」と思っている人が多いことかもしれません。
判断力や注意力の低下を自覚できていれば、無理をせず慎重に運転し、危険があれば止まる、という判断もできます。あるいは、もう運転は辞めておこうという決断につながるかもしれません。しかし自覚がなければ、「大丈夫(なはずだ)」と無理をしたり、危険の回避が遅れたりする可能性も。その結果、事故に至ってしまうこともありえます。
自分の運転技術に変化が出てきているかを客観的に評価するのは、なかなか難しいもの。家族や近しい友人を乗せたとき、率直な意見を聞いてみる――。年齢を重ねたら、時々、そんなふうに運転技術をチェックする気持ちを持っていたいものですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 65歳以上の事故、初の3割超 減少幅小さく状況深刻 県警、大学と対策研究へ /神奈川(2015年12月30日 毎日新聞 地方版)
*2 高齢運転者が関与した交通事故発生状況(平成26年・警視庁)