コンビニといえば、かつては若者が集まる場所でした。ところが今、コンビニ業界がターゲットを高齢者にシフトし始めているのをご存じでしょうか。ローソンが、介護の相談に対応できる店を埼玉県川口市に出店したのは、2015年4月(*1)。この店には、介護保険サービスのコーディネート役であるケアマネジャーを常駐させています。その後、東京都世田谷区では、弁当や生活雑貨の配送や、水回りのトラブル対応の取り次ぎなどを行う「ご用聞きサービス」も開始しました(*2)。
セブンイレブンでは365日、宅配弁当を提供。ファミリーマートでは高齢者向けの宅配弁当を手がける企業を子会社化しています。また、サークルKサンクスでは、杖や介護食などの介護用品をカタログから注文し、店頭で受け取れるサービスを提供しています。店内にイートインコーナーがあるコンビニでは、時間帯によっては、店頭販売の入れ立てコーヒーを手にした高齢者の井戸端会議の場となっていることもあるといいます。
コンビニだけではない高齢者シフト
若者の集まる場が、高齢者が集う場に変わりつつあるのはコンビニだけではありません。カラオケやゲームセンターも、徐々に高齢の利用者が増えています。平日午前中など、高齢者が一人カラオケを楽しむ姿がしばしば見られます。ゲームセンターにも高齢者の姿が目立つようになり、50歳以上の利用者対象の無料体験ツアーを開催したゲームソフトメーカーもあります。
考えてみれば、日本はこれから加速度的に少子高齢化が進んでいくわけです。つまり、若者は減り、高齢者が増えていくということ。購買意欲があるからといって、いつまでも若者ばかりをターゲットにしていては、次第に売上げは減少していくことになります。
総務省統計局の平成26年の「家計調査報告」(平成27年5月19日公表)によれば、2人以上の世帯の平均貯蓄額は1798万円。これを年齢層別に見ると、40歳未満が562万円なのに対し、60歳以上は2400万円を超えています。今、日本で一番お金を持っているのは、高齢者だということです。ここから見ても、各企業が高齢者にターゲットをシフトするのは当然のことですね。
求めることでサービスはどんどん増えていく
旅行業界でも、さまざまな高齢者を対象にしたツアーが企画されています。例えば、裕福で旅慣れた高齢者をターゲットにしたツアー。飛行機はビジネスクラス、泊まるホテルは三つ星以上、添乗員が同行し、至れり尽くせりの贅沢ツアーです。
あるいは、介護付きのツアー。バリアフリーの宿に、希望に応じて入浴介助等のためのホームヘルパーを派遣。家族だけでは要介護の高齢者と行くのが難しかった温泉旅行にも、行くことができるツアーです。また、バリアフリーのホテル選びやリフト付きバスの手配など、要介護者対応で海外旅行のプランニングをしてくれる旅行会社も増えています。このほか、バリアフリーのホテルを運営し、入浴やトイレの介助のためにプロの介護士を常駐させている企業もあります。
企業が高齢者に注目している今、あれがほしい、これがしたいと声を上げることで、サービスは増えていきます。年齢を重ねても、やりたいことにチャレンジし、行きたいところに出かけていく気持ちを持ち続けたいですね。それが健康を保ちますし、介護予防にもつながっていくのですから。
<文:宮下公実子(介護福祉ライター・社会福祉士)>
*1 「介護ローソン」1号店がオープン、玉塚社長も登壇 (日経デジタルヘルス 2015年4月3日)
*2 宅配+高齢者の「ご用聞き」 佐川とローソンが開始 (日本経済新聞 2015年6月24日)