人手不足が続いている介護分野に、外国人介護士をもっと受け入れていこうという施策が打ち出されています。
これまで行われていたのはEPA(経済連携協定)の枠組みでの受け入れで、目的は「国際交流」。受け入れ条件は厳しく、インドネシア、フィリピンなどから受け入れた人数は平成20年から26年までの7年間で1500人程度でした(*1)。
しかし、今回、政府が検討しているのは、「外国人技能実習制度」による受け入れ(*2)。この制度では、これまでも自動車産業や農業などで多数の外国人労働者を受け入れてきました。その受け入れ可能な職種に介護分野も加えようというのです。
外国人に介護されたい? されたくない?
現場で働く介護士に話を聞くと、外国人介護士に介護を担ってもらうことについては、賛否両論。
賛成派の意見は、集約すると、「介護の仕事で大切なのは、結局、その人の人間性。国籍は関係ないのでは?」。一方、反対派の意見は、「習慣、考え方、常識などが違う外国人に、日本の高齢者の気持ちに寄り添って対応することができるのか?」。
どちらももっともな意見に思えます。
では、介護される高齢者はどう受け止めているのでしょうか。
「絶対に日本人でなければイヤ」という高齢者はいます。しかし、そうした拒否反応を示す高齢者に話を聞くと、多くはまだ外国人から介護を受けた経験がない人たち。頭で考えただけだと、反対派の現場の声と同じ反応になってしまいそうです。
というのも、実際に介護を受けている高齢者は、意外なほど抵抗がないからです。以前テレビ取材を受けていた施設の高齢者たちは外国人介護士に介護を受けることについて、こんな感想を話していました。
「遠い異国から来て、こんなふうに世話をしてくれるなんてありがたい」
「最初は抵抗があったけど、今ではわからない日本語を教えてあげるのが楽しみ」
「やさしくしてくれるから、それで十分」
介護を受けている高齢者の思いはそれぞれですが、中にはこんな声も。
「今の若い子にも、昔の日本のこと、日本の風習を知らない子や、ちょっと常識はずれかなと思う子もいるけれど、だからダメということはない」
なるほど、と思いませんか?
介護士は万能でなくていい
ある高齢者施設で、若い介護士と入所者の間でこんな出来事がありました。
各フロアにあるミニキッチンで、ある時、若い介護士がおにぎりを作って提供しようとしました。すると、おにぎりを握っている様子を見ていた入所者の女性たちが、口々に文句を言い始めました。
「どうしておにぎりが丸いのよ。おにぎりは三角でしょ」
握っていた若い介護士は口を尖らせながら、「三角にすればいいんでしょ」と言って、なんと、包丁で切って三角にしようとしました。それを見た女性たちはますます声を大きくして、「何やってるのよ、貸してごらんなさい」と立ち上がり、おにぎりを握り始めたのです。普段、自発的に動こうとしない女性も含め、フロアにはワイワイ言いながらおにぎりづくりをする入所者の女性たちのにぎやかな声があふれました。
ある側面から見れば、この若い介護士はおにぎりひとつ満足に握れない、と言えるのかもしれません。しかし、入所者から気軽に「何やってるのよ」と言ってもらえる関係性を作っているこの介護士は、結果的には入所者の潜在的な能力を引き出す素晴らしい介護を提供したのです。
介護士は、何でも知っている存在、何でもできる存在である必要はない、と言えるいい例ではないでしょうか。
もちろん、外国人介護士による介護が、このケースと同じとは言えないかもしれません。しかし、お互いが構えることなく自然体で接していけば、案外うまくいくのでは? せっかく日本で介護をしようとはるばる来てくれた外国人介護士のことは、色眼鏡なしにニュートラルな気持ちで受け止めていきたいですね。
<文:宮下公美子>
*1 経済連携協定に基づく受け入れの枠組(厚生労働省)<※PDFファイル>
*2 外国人技能実習を拡充 法案閣議決定、受け入れ延長(日本経済新聞) など各紙報道