2015年1月、政府は認知症の人の数を推計し、2025年には最大で750万人になると発表しました。2012年現在で65歳以上の7人に1人とされていた認知症の人が、5人に1人になるという計算です。年々、増え続けている認知症ですが、その治療には、現在、下記の表にある4種類の薬が使われています。
■アルツハイマー病の治療薬

※「アルツハイマー病の治療:現状と将来」(田平 武・日老医誌 2012;49:402―418をもとに作成)
最初に開発されたのは、1997年発売のアリセプト。開発を始めてから15年かかってようやく発売に至りました。その後、2011年にレミニール、メマリー、イクセロンパッチ・リバスタッチパッチが相次いで発売され、症状や服薬のしやすさなどで薬を選べるようになりました。どの薬も少しずつの服用から始めて、状態の変化や副作用の出方を見て、本格的な服用を始めます。
薬の種類が増えたので、薬が合わない場合は違う薬を試すことができます。また、選択肢が増えたことで、認知症の症状改善や進行を遅らせる効果も上がりやすくなりました。
アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ・リバスタッチパッチは、同じ作用の薬なので併用はできません。しかし、メマリーは作用が違うため、アリセプトなどと併用できます。この点も、治療の幅が広がったと歓迎されました。
発売中の薬が効くのは主にアルツハイマー病のみ
これらの薬は、どれもアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)の治療薬。アリセプトこそ、2014年にレビー小体型認知症の治療にも有効だと確認されましたが、それ以外の薬はアルツハイマー病以外の認知症には効果があまりないとされています。
また、薬の効果はどれも、記憶力の低下を遅らせたり、認知機能を改善したりするという、症状を和らげる程度のもの。病気の進行を抑制したり、根本的に治したりする薬ではありません。薬との相性もあり、よく効く人もいればほとんど効果がない人もいます。効果がある人も一時的なもので、1年半以上服用していると徐々に認知機能は低下していくと言われています。アリセプトは、攻撃性を高める副作用が出る場合もあり、服用を始めて興奮しやすくなり、かえって家族が対応に困ったというケースも耳にします。現状の薬では、まだ治療効果は十分とは言えないのです。
認知症の新薬の発売は早くても2018年以降
そこで、製薬各社は下記の表のように認知症の「発症を遅らせる」、進行を「抑制する」効果がある、新しいアルツハイマー病の治療薬開発に力を入れています。アリセプトの開発に15年の年月が必要だったように、薬の開発には時間がかかります。現在、最終段階の治験(患者への投与による薬の臨床試験)に取りかかっている薬でも、早くても3年後の発売です。そして、残念ながら、これらの薬もまた、開発がうまくいったとしても認知症を治すことはできません。
■開発中の認知症治療薬

※参考: 日本経済新聞 2015年1月22日夕刊
しかし、認知症は治らなくても、症状が悪化しなければ生活に大きな支障は出ません。
認知症の最大のリスク要因は「加齢」です。90歳以上の約6割は認知症といわれており、年齢が高くなるほど認知症の発症リスクは高まります。新薬が発売されれば、認知症の発症を遅らせ、病気の進行を抑制することが期待できます。そうすれば、認知症になっても生活に不自由を感じることがないまま、人生を終えることができるかもしれません。
現在、認知症を予防する上で最も効果があるとされているのは、適度な運動とバランスのよい食事。薬が開発されるのを待つ間は、こうしたことを心がけ、自力で認知症予防に努めておくとよいでしょう。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>