2015年1月27日、認知症施策推進総合戦略「新オレンジプラン」が発表されました。物々しい名称ですが、要は、増え続ける認知症の人たちをこれからどうやって支えていくか、国としての方針をまとめたもの。2012年9月に、2013年から5年間の施策「オレンジプラン」が発表されて2年あまりで新たなプランが発表になりました。
オレンジプランから大きな路線の変更はありませんが、注目したいのは以下の2点です。
(1) 社会全体で認知症への理解を深める取り組みの拡充
(2) 認知症当事者と家族の視点の重視
認知症の理解者を増やし、認知症の人を地域で暮らしやすくする
(1)には、認知症についての基本的な知識と対応方法を学んだ「認知症サポーター」を2017年までに800万人養成することや、学校教育において認知症の人への理解を深める取り組みを推進すること等が盛り込まれました。
自治体などが主催する「認知症サポーター養成講座」は、2時間弱の無料講座。受講するだけで誰でも「認知症サポーター」になれます。この講座は、認知症対応の特別な活動をする人を養成するものではなく、基本的には認知症についての理解者を地域に増やしていくためのもの。
実際、この講座を受けた人が、外出先で帰り道がわからず途方に暮れていた認知症の人に声をかけ、交番に案内して事なきを得た、というような事例が増えています。
これまでも地道に行われてきたこの講座の修了者を、前回のオレンジプランでは2017年度末までに600万人にするという目標を掲げていました。今回、これをさらに拡大し、800万人まで増やすというのです。また、認知症への理解をさらに深め、積極的に支援活動をする人を増やす上級講座の開催も推進していく考え。地域に認知症について理解している人を増やすことで、認知症になっても地域で暮らしやすくしようというわけです。
そういう意味では、学校教育で早くから認知症について学ぶ機会を設けることにした施策は大きな意義があります。人は知らないことに対して恐れや不安を持ち、敬遠したいと考えるもの。小さいうちから認知症のことを知っておけば、身内だけでなく町で出会った認知症の人のことも、自然に受け止められるようになりそうです。
語り出した認知症当事者の声から学ぶために
(2)については、これまでの施策が支援する側からの視点になりがちだったことを反省して盛り込まれました。
数年前から若年性認知症当事者の人たちが、認知症と診断されたときの気持ち、できること・できないこと、ほしい支援について語り始めました。
認知症は、早期に診断を受けて対応することが、病気の進行を遅らせるために重要だと言われています。
しかし、診断後に本人が病気とどのように向き合えばいいか、また、病気の進行に応じてどのようなサポートが受けられるかについての情報提供がないと、「早期診断、早期絶望」ではないか。こうしたことが当事者の口から語られ、大きな反響を呼びました。
また、当事者の語りから、認知症になっても何もわからなくなるわけでも、何もできなくなるわけでもないこと、本人にできることはできるだけしてもらうほうがよいことなどが、少しずつ知られるようになってきました。こうしたことを受けて、認知症施策を立てる際には、認知症本人やその家族からの視点を重視することが、新オレンジプランに盛り込まれたのです。
2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症とその予備軍になるとされています。身近な人に認知症の人がいるのは当たり前の時代がやってきます。今はまだ関係ないと思っていても、「認知症サポーター養成講座」などで、認知症についての基本的な知識を身につけておくと安心です。
「認知症サポーター養成講座」については、自治体の高齢者支援担当部署などに問い合わせれば開催日程等を聞くことができます。
<文:宮下公実子(介護福祉ライター・社会福祉士)>