“地域包括ケア”という言葉をご存じですか?時々聞くけれど意味がよくわからない、という方も多いのではないでしょうか?
“地域包括ケア”とは、高齢者が住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らし続けるために、地域のさまざまな支援やサービスを総合的に提供していくこと。介護と医療はもちろん、地域の住民とも連携しながらケアしていくという意味です。
では、みなさんのお住まいの地域で、その“地域包括ケア”がしっかりされている実感はあるでしょうか?
今回は、埼玉県の幸手市と杉戸町が行う地域包括ケアをご紹介します。
同時並行で行われるたくさんの取り組み

東埼玉総合病院は、地域密着型の急性期医療に40年取組み、昨年幸手市へ移転。地域包括ケアシステムの構築に力を入れています
まずは、幸手市と杉戸町の地域包括ケアの立役者とも言える、医師の中野智紀さんのもとへ。東埼玉総合病院 在宅医療連携拠点事業推進室の室長でもあります。
そもそも“地域包括ケア”とは、どんなものなのかを聞いてみました。
「地域包括ケアは、今までも日本の離島や山村で行われてきました。住民が少なく、多くの人が顔見知りで助け合う風土があれば、自ずと地域住民・医療・介護は連携できるんです。ですが、大都市や都市郊外は、事情が異なります。連携が難しく、実現するには、さまざな仕組みを作る必要があります。またその仕組みに人が集まり、継続していく流れを作る必要があります」
実際に幸手市と杉戸町でどんなことが行われているのか、まとめた資料を見せてもらいました。

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・在宅医療連携拠点 菜のはな
・暮らしの保健室 菜のはな
・ケアカフェさって
・しあわせすぎ
・みんなのカンファ 菜のはな
・健康アセスメント調査
・住民主催の地域ケア会議
…1枚の紙に、ズラリと並んださまざまな取組!これらすべてを、中野先生が取り仕切っているんですか?!
「いえいえ。最初に私が道筋を用意しても、実際に運営するのは地域のみなさんです。そして、それがどんどん広がっているんです。幸手市と杉戸町には、熱意と実行力のある人がたくさんいますから、私は裏でサポートしているだけ。私の仕事は、地域のみなさんと、医療や行政をつなぐ役くらいですよ(笑)」
“地域包括ケア”の主役は地域の住民、と中野先生は力を込めます。
そして、地域包括ケアに力を入れることになった背景を教えてくれました。
課題だらけの町だったからこそ、実現した取り組み

地域糖尿病センター センター長でもあり、経営企画室 室長という肩書も持つ中野先生。たくさんの仕事を掛け持つ多忙な日々です。
「幸手市や周辺地域は、以前から人口に対する医師の数が全国最低レベルでした。首都圏にありながら医師が不足。しかも住民が高齢化しています。このエリアには、高度成長期の頃に、大規模な工業団地がつくられ、ファミリーがたくさん移住してきました。子供の笑い声が絶えない活発な街だったと言います。しかし、その頃、働き盛りだった世代が、今は皆、高齢者になっています。一方で若い世代はあまり増えていません。人口の比率がアンバランスになっているんです。これは幸手市や杉戸町だけではなく、大都市郊外のあちこちで起こっている現象だと思います」
「もともと医師不足のエリアなので、医療機関にかかるために、都内や他の地域に出る人も多かったんです。しかし、高齢になると車を運転したり、電車を乗り継いで遠くの医療機関に行くのは難しくなる。必然的に、地元の医療機関を利用することになります。しかも、高齢になると医療や介護の必要性が増しますから。そんな状況にも関わらず、相変わらず医師は足りない。また、医療や介護に関して複数の運営事業者がありますが、連携できていない。課題だらけでした」
団地や新興住宅地の高齢化は、日本中あちこちで起こっていること。そして、移動能力が落ちることで、遠方の医療機関に行きにくくなるのも共通の課題。身につまされますね。
そんな中で登場するのが、都市郊外の地域包括ケアシステム、中野先生いわく“幸手モデル”です。
次回はその、幸手市・杉戸町で行う地域包括ケアについて詳しくご紹介します。