Dカフェ・ラミヨでは月に一度、お医者さん、ケアマネジャー、研究者など医療・介護の専門家を囲む会があります。その名も「Dカフェ懇話会」。と言っても、堅苦しいものではありません。ゲストの短いトークの後は、全員で和気あいあいと話をする内容。その様子を3回に分けてお伝えします。
「お医者さんを囲む会」では普段、聞けない医師の本音も聞ける!?
Dカフェ懇話会は、今まで10回以上行われています。中でも、「お医者さんを囲む会」は、日ごろはあまり話ができないお医者さんと直接話ができる、かかりつけ医とは異なる視点の意見が聞ける、と大人気。
今までゲストとして参加された方は、神経内科医、精神科医、内科医など約6人。テーマも、「介護ストレスとの付き合い方」、「特養ホームでの医療」、「循環器疾患と認知症」などさまざま。
医師からのお話しの後のフリートークコーナーでは、質問も飛び交います。
「診断に納得いかない場合、お医者さんを変えるときなんて言えばいいんでしょうか?」
「うちの父は、薬を飲んだらむしろ具合が悪くなっているように見えるんですが…」
「本当に認知症は治らない病気なんでしょうか?」
なんていうやりとりも。
また、医師の話を起点にしつつ、話が膨らんでそれぞれの立場からの意見をぶつけ合うことも。席が足りなくなることも多いため、事前予約制にしているそうです。
今回取材したのは、東京都立松沢病院認知症疾患医療センター長の新里和弘さんがゲストの会。テーマは「笑いと認知症」です。
認知症のご本人も、ご家族も、「笑う」ことが重要。笑みを作り、声を上げて笑うことで、気持ちの方も明るく変わっていく、と話してくれました。「笑い」の効用を体感すべく、皆で笑いをもたらすポーズも実践!(写真)。
では、先生のジョークを交えたお話しを一部抜粋してご紹介します。
「笑いと認知症」
「あるご夫婦の話です。ご主人が認知症です。その奥さんの悩みは、ご主人が自宅であることを忘れてしまい、当の奥さんに向かって、『あの、おばさん。お邪魔しました。そろそろ失礼します』と出て行こうとすることなんです」
以下は、奥さんと私の会話です。
奥さん「夕食が終わると夫はいつも、そわそわ落ち着きがなくなってくるんです。そして『そろそろ、失礼します』って腰を浮かせるんですよ。私のことは親戚の女の人かなんかだと思っているみたいなんです」
新里「認知症は、最近のことは忘れてしまいますけど、昔のことはよく覚えています。昔の記憶が優勢になって、生活に支障をきたすことがありますが、そういうことでしょうね」
奥さん「この前なんて、あんまり私のことを『おばさん、おばさん』っていうもんだから、悲しいやら悔しいやらで、思わず『このボケおやじ!』って言っちゃったんですよ」
新里「そりゃ勇ましい(笑)。病気がなせる業ですけどね。今まで一緒にやってきて、奥さんもさぞショックだったでしょう」
奥さん「ところが先日、こんなことがありました。また夕食後にそわそわし始めて、『出るぞ出るぞ』と思ってたら案の定、『そろそろ失礼します』って始まったんですよ。『ここはあなたの家なのよ』、『いえいえ失礼します』って言い合ってたんです。その時、玄関の呼び鈴がピンポーンって鳴ったので出てみると、パイプ清掃とかいう、ちょっと怪しい押し売りみたいな人が来たんです。お断りするのに「1回だけ、清掃お願いします」ってしつこくて。『結構です』、『お願いします』、『結構です』、『お願いします』と玄関先でやってたんですよ。そしたら夫が出てきて、『いらないって言ってるだろ!』って一喝してくれて、それでその男、そそくさと帰っちゃったんです。私ちょっと夫を見直して、『やっぱり駄目ね、男の人でないと』って言って、食器の片づけをしてたんですけど、そういえばその晩は、『帰ります』っていうのが治まったな、って気づいたんです」
新里「微妙なもんですね。スーッと現実の世界に戻ったんですね」
奥さん「その出来事があってから、夫にいろいろお願いして、やってもらうことにしまいた。その後には必ず、『やっぱり駄目ね、あなたじゃなくっちゃ』って言うようにしたんです。そのおかげか、『そろそろ失礼します』もぐんと減りました」
新里「『介護は楽しく知恵比べ』なんて言います。私も好きな言葉です」
「介護は楽しく知恵比べ」。その極意について、次回も引き続きお伝えします。
*Dカフェnet主催のイベント【めぐろ認知症ぷらすミーティング】が11月5日(水)に行われます。
新里和弘さんの講演のほか、保健師やケアマネの相談コーナー、介護サービス情報コーナー、ハンドケアなどの体験コーナーも。介護経験者と交流できる認知症カフェもあります。
詳しくはこちら → Dカフェまちづくりネットワーク 公式サイト