「ケアラーズカフェ&ダイニング アラジン(以下アラジン)」は、週に2回、木曜日と金曜日の17時30分からバータイムを設けています。会社帰りの介護者が、ふらっと立ち寄ることができるようにとの考えからです。
バータイムのマスターをつとめる石田大さんと、NPO法人介護者サポートネットワークセンターアラジンのスタッフ阿久津美栄子さんに、介護カフェ、介護バーについて伺いました。
<取材・文 椎崎亮子>
介護をしたことがないけれど、介護をしている人の受け皿に

バータイムのマスター石田大さんと、アラジンのスタッフ阿久津美栄子さん
介護関係の仕事を持つ人々が集っていたこの日、アラジンの広い窓から、それとなく中の様子を気にしながら通り過ぎていく人の姿がたくさん見受けられました。
2012年4月のアラジン開店時は、昼のカフェタイムに訪れる人はアラジンの会員、カフェの立ち上げにかかわった人たちなどの関係者、そして地域でかかわりのある人たちがちがほとんどだったそうです。そこから徐々に口コミや会合を通じて、一般のお客様が増えていったといいます。
バータイムはカフェタイム開始より後の、2012年9月21日に始まりました。現在のところ、毎週のように開催されているセミナーや会合の参加者として訪れる人がほとんどで、「ふらりと」立ち寄る人は少ないそうです。
会合の参加者にビールと軽食をサーブしていた石田大さんは、「でも、ここには、困ったときに『あそこがあった』とケアラーが駆け込める、という独自の役割があるんです」と笑顔で語ります。
石田さんは、2011年の初めごろ、NPO法人のマネジメントを学ぶ学校に通っていました。そこでアラジンの理事長である牧野史子氏が講師をしていたことから、コミュニティカフェの運営に興味を持ち、アラジンの立ち上げに参加することになったそうです。
「実は私は、まだ介護を経験していません。そんな私が、介護の悩みを持つ人の受け皿になれるのだろうかと、最初は半信半疑でした」
しかし、コミュニティカフェについて学ぶうち、石田さんは「傾聴することならできる」ことと、その傾聴の大切さに気づいていったといいます。
「自分の今の価値観のまま、無理に相手に合わせず、とにかく話してくださることを聞くようにしました。話を聞き続けるうちに、私自身にとっても、介護がもっと身近になっていきました」
アラジンに来店するまでに1年かかる人もいる

来店した人たちが思いをつづったノート
アラジン開店以来、いくつかの新聞や雑誌等で紹介されました。その記事や、アラジンのサイトを見て、「いつか行ってみたい」と思い続けているお客様がいる、と石田さんは話します。
「先日も、都内の方ですが、バータイムにふらりと入ってこられ、問わず語りに『1年、来たいと思っていてやっと来ることができたんです』と話される方がいらっしゃいました。気にはなっていても、日々の介護や仕事に追われ、なかなか来ることができないでいる。でも、『あそこに行けば介護の話ができる』とずっと思ってくださっていたんですね」
「そういう人が一人でもいるなら、そのニーズに応えるためにこそ、アラジンはここに固定した場としてありたいんです」と阿久津美栄子さんも語ります。
「介護とは、どんな人でも初めて体験することです。必ずその人なりの問題やトラブルにぶつかるのが介護と言えます。そのときに、話して、わかってもらう『場』が必要なのです」
ニーズに合わせた「場」が創られていく

今後は介護施設(ディサービス等)への「出張bar&カフェ」も予定している。すでに移動式のカウンターを特殊なダンボールで製作したそう
そのような場へのニーズが潜在的に高まってきたことは、アラジンが開催する「ケアラーズカフェ立ち上げ講座」「フォローアップ講座」に全国から人が集まることに表れています。
「遠くは沖縄からも参加者がありました。また、全国の行政関係の参加も多いです。市民側からのコミュニティカフェ立ち上げ要請を受けて勉強に来られるんです」(阿久津さん)
アラジンも、東京都の「地域支え合い体制づくり事業」 による補助金を受け、運営資金の一部としています。
「運営資金的には、カフェの売り上げだけでは厳しいのが実情ですが、今年2月に創刊した『ケアラーズ新聞』への企業からの広告収入や、さまざまな企業とのコラボレートでのセミナー等を開催し、収益につなげるよう模索を続けています」(阿久津さん)
現在は、アロマテラピースクールとの協働で開催する介護アロマ講座、日比谷花壇とのコラボによるフラワーセラピーやエンディングノート講座などが人気を集めているそうです。
その他「娘サロン」「息子ツイートの会」「既婚男性ホンネのつどい」など、参加者のカテゴリが細かく分かれた独自性のある会合も企画。それらは石田さんと阿久津さんが主にアイディアを出しているといいます。
「介護は、家族間でも立場の違いによってずいぶん温度差があります。娘さんとお嫁さんでは、同じ介護者として共感しあえないことも多いのが実情です。ですから、立場ごとに会合を設けることで、同じ感覚で安心して話ができます」(阿久津さん)
現在企画を考えているのは「孫の会」とのこと。20代、未婚の「孫」の立場の若い人が介護のために仕事も辞め、悩みを持つケースが増えているとのこと。介護者のニーズを敏感にとらえ、ニーズに合わせた場が自由な発想で創られていくことも、アラジンの特徴です。ちなみに若い介護者で、介護のためにやむなく仕事を辞めてしまった人のために、仕事そのものも生み出していきたいとも、阿久津さんは話します。
(次回に続く)
*取材当時阿佐ヶ谷にあったCarer’s cafe&dining アラジンは、2015年11月現在は、下記に移転しています。
〒166-0011
東京都杉並区梅里2-11-14-渋谷ビル1F
(丸の内線新高円寺駅下車徒歩4分)
Carer’s cafe&dining アラジン