映画『東京家族』主演 橋爪 功さん
山田洋次監督50周年記念作品であり、豪華キャストでも話題を呼ぶ、現代の家族の姿を温かく描き出した映画『東京家族』。2013年1月19日の公開に先立ち、作品の中核的役割を担う父親・平山周吉役を演じる、俳優・橋爪功さんにインタビューさせていただきました。演じる立場から見た『東京家族』の見どころや、高齢の父親を演じる上で考えたこと、そして橋爪さんが考える「老い」「介護」についてなど、さまざまなお話を伺いました。
<取材・文 種藤 潤/インタビュー撮影 佐藤大成>
プロフィール
橋爪 功(はしづめ・いさお)
1941年大阪府生まれ。文学座、劇団雲を経て、1975年に演劇集団円の設立に参加。以後、映画・舞台・テレビドラマと枠にとらわれない活躍を見せる。日本アカデミー賞主演男優賞[『お日柄もよくご愁傷さま』(1996年・和泉聖治監督)]、同助演男優賞[『キッチン』(1989年)/『おいしい結婚』(1991年・森田芳光監督)/『ジュリエット・ゲーム』(1989年・鴻上尚史監督)/『善人の条件』(1989年・ジェームス三木監督)]受賞。近年の映画出演作品には『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年・錦織良成監督)、『奇跡』(2011年・是枝裕和監督)のほか、認知症役を演じた『「わたし」の人生(みち) 我が命のタンゴ』(2012年・和田秀樹監督)がある。
映画情報
『東京家族』
数々の名作を世に送り出してきた日本を代表する山田洋次監督の待望の最新作。映画監督生活50周年の節目を担うこの作品は、2012年に行われた「世界の映画監督が選ぶ優れた映画」第1位に輝いた、巨匠・小津安二郎監督の『東京物語』をモチーフに制作。日本の社会が移り変わろうとしたときのある家族の日常を切り取った『東京物語』から60年。東日本大震災という大きな変革を迎える現代に重ねて、山田洋次ワールドで描く現代の家族の姿は、大いなる共感の笑いと涙を届けてくれる、歴史に残る感動作となっている。
監督:山田洋次
脚本:山田洋次・平松恵美子
音楽:久石譲
出演:橋爪功/吉行和子/西村雅彦/夏川結衣/中嶋朋子/林家正藏/妻夫木聡/蒼井優/小林稔侍/風吹ジュン/茅島成美 ほか
『東京家族』公式サイト

Ⓒ2013「東京家族」製作委員会
山田監督の演出に忠実に、周吉を演じた
『東京家族』で父・周吉役を務めた橋爪功さん。同年代であることなどを意識して芝居に臨まれたのでしょうか。
「周吉を演じる上で、特に意識したことはありませんでした。今回私は、山田監督の演出の通りに演じることに集中していました」
演出に忠実に演技する――この何気ない言葉に、橋爪さんの役者としての明確なポリシーが詰まっていました。
「私は映画はもちろん、テレビドラマでも、作品は監督のものだと思っています。役者はその監督の演出に従い、忠実に役割を全うするのが仕事。だから私は山田監督の思い描く周吉を忠実に再現することに努力しました」
その監督からの演出を忠実に「再現」した周吉は、高齢の父親としての“老い”が見事に表現されていました。
「周吉は私と同年代ということですが、残念ながら私はあまり高齢という自覚がなくて(笑い)。監督にも『もっと背中を曲げて』と“老い”を指導され、私はそれに従うだけでした。そう考えると、『東京物語』で父・周吉役を演じた笠智衆さんは本当にすごい。あの当時笠さんは40代なんですよ! それであれほど“老い”を演じられるとは……笠さんもすごいですが、それを表現できる映画というツールもすごいと思いますね」

「東京家族」のなかで演じた厳格な父・周吉とは対照的に、ほがらかに、ときには冗談を交えながら気さくにインタビューに応えてくれた橋爪さん
クランクアップが2012年で一番安心できた日
そんな山田監督の“老い”を見事に演じ上げた橋爪さんですが、この作品の出演依頼が来た時は、正直不安だったそうです。
「山田作品は初めてでしたし、それがこんなに大きい役で、しかも監督の50周年記念作品ですから……間違って連絡してきたんじゃないかなとも思いました(笑い)」
しかし実際の撮影現場では、不安はさほど感じなかったといいます。
「先にも言った通り、私はそれに従って演じるだけで良かったから。とにかく山田監督の演出がきめ細かくて、私は安心してその演出に委ねられましたしね」
そして迎えたクランクアップの日。山田監督から言われた言葉を、橋爪さんは今でも克明に覚えていると言います。
「スムーズに進んでいたとはいえ、最後まで気持ちは張りつめていましたよ。そんななか、クランクアップの日に私と吉行さんに向かって監督が『演じるのがあなた方で本当に良かった』と言ってもらったときには、本当に嬉しかったし、ホッとしました。2012年で一番安心した瞬間でした(笑い)」
しかしクランクアップ後の橋爪さんは、ものすごい寂しさに襲われたそうです。それほど撮影現場の日々が楽しかったとのこと。その詳しい話は、次回に。
(次回に続く)