多くのメディアに取り上げられ大反響 シングル息子による介護のススメ

■書名:息子介護 40息子のぐうたら介護録
■著者:鈴木宏康
■発行:全国コミュニティライフサポートセンター(CLC)
■出版年:2009年5月
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持続可能な介護のために――介護者のケアを求めて
早期退職者といえば、これまでは定年間近の人が主だったが、最近は親の介護をするために、若い年齢で早期退職する人が増えているという。
本書の著者、鈴木宏康さんもそのひとり。1996年から父親の介護を始め、今は仕事を辞めて認知症になった母親を単身で介護している。鈴木さんは本書の中でこう吐露する。
〈介護保険は変だよ。介護が重くなればなるほど費用が高くなる、介助者の負担は重くなる。働けない俺は金がないから介護サービスも満足に使えない。今一番したいこと、ゆっくり眠りたい〉
現在、日本の介護保険制度は、給付に際して5段階に分かれる要介護認定を設けている。1~5のうち最も症状が重いのが5で、認定の数字が上がるほど受給できる保険も増えるが、介護サービスの利用料も増えざるを得ない。徘徊癖のある認知症の母を一人にしておけず、やむを得ず職を辞した鈴木さんは、介護保険料を支払うだけで精一杯。サービスの利用料を稼ぐためにアルバイトをしようにも、アルバイトの間に母親をデイサービスへ預ければ、その分また出費がかさむ。利用料が比較的安い特別養護老人ホームも、厚生労働省の調査によると待機者数が全国で約42.1万人に上り(2009年12月集計)、いつ入居できるのかわからない。
これら介護を巡る社会の矛盾に憤りながらも、無我夢中で介護してきた日々を、鈴木さんはストレートな言葉で率直に綴る。1時間程度で読了できる読みやすいボリュームだが、その過酷な日々を想像すると、言葉に詰まる。在宅介護の中でも、単身者、特に男性一人での介護は、家族とともに取り組む場合とは明らかに別次元の問題だ。そして鈴木さんは、介護者にばかり比重が置かれ、介助者のケアがおろそかになっている今の介護の現状に、警鐘を鳴らす。
〈介護者の精神状態は、要介護者との症状の違いはあっても、要介護度は同じなのかな?いや、精神状態はそれ以上?だと思うのです。同化しちゃってるんですね。(中略)世間は介護者を、まともに、見すぎているように感じるね。(中略)在宅介護は、狂犬病と同居みたいなものだと思います。発病をしないように、普通の犬にはときたまワクチン(ケア)を打たんとね〉)
本書には〈人それぞれの介護〉という言葉がたびたび出てくる。家族構成はもとより、財力、能力など個々の状況によって介護には多様なスタイルがあり、1つの形に当てはめることはできない、という意味だ。介護者が常に心地良く過ごすことができるなら、それは理想的だろう。だがそのために介護者が自分を犠牲にし続ければ、いずれ共倒れになる。その最も悲惨な結末を避けるためにも、鈴木さんはまずは介護者本位の介護を提唱する。
後半、1人きりで奮闘する鈴木さんに一筋の光をもたらした、在宅介護支援グループ「すずの会」代表・鈴木恵子さんのコラムが収録されている。鈴木さんとの出逢いや、その後の彼の介護の様子も語られているのだが、恵子さんの目に映るのは、ぶっきらぼうだけれど愛情深く優しい息子の姿だった。
本書は発行以来、NHKやテレビ東京、読売新聞など、多くのメディアで紹介されて反響を呼び、独身息子の介護の実態を知るべく、行政担当者も鈴木さんのもとを訪れるという。一人の人間の叫びにも似た生の声が、介護制度の改革へ向けて人々を動かし始めた。
<茂田>
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著者プロフィール
鈴木宏康(すずき・ひろやす)さん。1996年より父親に次いで母親を単身で介護する日々を綴った著書『息子介護 40息子のぐうたら介護録』が多くのメディアで紹介され、反響を呼ぶ。現在は介護の傍ら、川崎市の在宅介護支援グループ「すずの会」でのボランティア活動や、単身者による介護についての講演も行っている。