認知症への「正しい理解」が介護をする人にも笑顔をもたらしてくれる

■書名:誤解だらけの認知症〜よくなる! ラクになる! 治療•介護•予防の最新常識
■著者:石川衛
■発行:技術評論社
■出版年:2012年7月
>>『誤解だらけの認知症~よくなる! ラクになる! 治療・介護・予防の最新常識』の購入はこちら
認知症についての最新の研究成果が教えてくれること―――認知症は理解できる!
偏見や誤解のこわいところは、それ自体の正否もさることながら、真実を遠ざける力として働いてしまうところ。いったん自分の中に出来てしまった思い込みを書き換えることは相当に難しいことでもある。
医学部に学んだ知見を持つNHKのディレクターとして、医学や健康に関する最新研究を取材してきた著者の石川さんもある時まで、認知症は進行するばかりで、本人も家族も負担がどんどん重くなっていく病気なのだろう、と思い込んでいたという。それが「誤解」であるとは気がつかずに。 ところが、ある医師を取材したときにこう<一喝>される。
「それは大きな誤解です」と。
<その方がおっしゃるには、介護の負担も、認知症の症状も軽くする方法はある。ただ問題は、多くの人が認知症について正しく知らないばっかりに、わざわざ症状を悪化させたり、介護の負担を増やしたりしてしまっていることなのだ、と>
この言葉に強い衝撃を受けた石川さんは、独自の取材を進め、その過程で、医師の言葉を裏付けるような「実例」に次々に出会うことになる。脳の写真からは重度の認知症の疑いが認められるにも関わらず、認知症にならず生き生きと暮らしている人、夫の介護に疲れ自殺まで考えた人があることがきっかけで笑顔を取り戻し、介護をしながらパン工房まで始めた例……
<そんな姿を見ていくなかで、私が過去に抱いていた認知症に対するイメージに大きな「誤解」があると、確信をするようになりました>
こうして自分にも誤解があったことから出発した石川さんの認知症取材の成果は、すでにNHKのいくつかの看板番組の中で紹介されているが、本書は、その豊富な取材から得た「認知症に関する最新の真実」を、「認知症に対する誤解を解く」という視点から改めて編み直したものである。
具体的には、ありがちな誤解が以下のように6つの章に分けられ、取り上げられている。
第一章 「認知症は病気である」の誤解
第二章 「認知症は予防できない」の誤解
第三章 「認知症になると全て忘れてしまう」の誤解
第四章 「認知症、早期発見」の誤解
第五章 「認知症の介護には希望がない」の誤解
第六章 「認知症は薬で治る? 治らない?」の誤解
介護の経験もない30代前半の自分がこうした本を書く資格があるのかどうか。執筆前にそう自問したという石川さんは、取材者という立場で得たさまざまな知見を一人でも多くの方に知ってもらいたいという思いに至り、執筆を決断したという。専門家や現場からの見聞だけではなく、国内外の文献にも広くあたり、根拠をもった記述をするよう心がけたという本書は、その意味では、「認知症の世界を俯瞰する最新の地図」でもある。
<「認知症」に関して言えば、現状や予想されている未来は、必ずしもバラ色のものではありません。その状況を受け止めたうえで、それでも少しでも「希望」を感じることができる情報をお伝えしたいという思いを持ちながら、筆を進めてきました>
石川さんが「あとがき」でそう語るように、本書を経て誤解が正しい理解に変わったとしても、希望だけが増えるわけではないけれど、本書を貫く「医学的な見地」から実証的に認知症をとらえようとする視点は、いままでは不可解としか思えなかったような認知症の方の言動が、脳の働きから生まれたある種の合理性を持った表現なのだということを確かにわたしたちに教えてくれる。
それは、介護する人の気持ちに納得を与え、心を穏やかにし、確実に笑顔を増やしてくれるはずである。
<佐藤>
>>『誤解だらけの認知症~よくなる! ラクになる! 治療・介護・予防の最新常識』の購入はこちら
著者プロフィール
市川衛(いちかわ•まもる)さんは1977年、東京生まれ。東京大学医学部卒業後、NHKに入局。ディレクターとして、医学や健康に関する最新研究を数多く取材し、番組として世に送り出している。主な作品にNHKスペシャル『脳がよみがえる〜脳卒中•リハビリ革命〜』(同名の著書が主婦と生活社より刊行されている)、ためしてガッテン『認知症! 介護の新技で症状が劇的に改善する』など。2008年から東京大学医学部非常勤講師を務めている。