<ライター:葦江(社会福祉士 認知症専門相談担当)>
ヤングケアラーとは
ヤングケアラーとは、親や兄弟姉妹、祖父母の介護をしている18歳未満の子供のことを言います。18歳以上で30代までは、若者ケアラーと呼ぶようです。
家族に介護する必要のある人が存在し、それも頻回に介護が必要となれば、外部のサービスに頼ったとしてもある程度は家族の介護力が問われます。
例えば高齢者の介護の場合、本来は主になるはずの息子や娘が平日や日中は仕事で不在のために介護できないとなれば、残る直系親族は主に孫です。
民法第877条1項では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と法律で定められています。しかし、これは身体介護をする義務ではなく、金銭面での義務だと言われています。
しかも、夫婦や未成熟の子に対するものとは異なる義務です。自分に余裕がなければこれには当てはまらないため、未成年のヤングケアラーに介護や金銭面での義務があるとは言えません。
ヤングケアラーとの初めての出会い
思い返すと、初めてヤングケアラーと言ってよい介護者と出会ったのは、もう13年くらい前のことです。
ある老夫婦世帯の支援をしていた時、身元引受人は娘夫婦だったのですが、その娘夫婦はそろってフルの仕事をしていました。
そんなある日、困ったことに老夫婦の具合が2人そろって悪くなってしまったのです。相談のため娘に連絡したのですが、その返事は驚くことに「中学2年生の男の孫が行くのでよろしく」というものでした。
それはまるで当然のような言い方でしたが、こちらには違和感があったので「大丈夫なんですか、お孫さんで」と聞き返しました。すると、孫も承知して介護に関わっていて、孫はいつも買い物や身の回りのことをしているのだそうです。しかも、7キロ以上離れた娘宅から自転車で行くとのことでした。
ケアマネジャーに事情を聞くと、娘夫婦は遠方に仕事に行っているので「中学2年の孫がいつも来る」と言います。
1時間ほどして到着した中学2年の男の子は、大人たちに挨拶すると祖父母に話しかけ、必要なことを把握してテキパキ対応していました。
その老夫婦にはケアマネジャーがついてヘルパーも入っていたので、孫がすべての身体的な介護をしていたわけではありません。しかし、大変驚いた出来事でした。
小学1年生と3年生のヤングケアラー
ヤングケアラーは、子供が家族としてできる買い物や掃除、調理などをはじめとして、人によっては大人並みに入浴介助やトイレ介助までしていると言います。
家庭内の介護は相手が家族なので、感情面でのストレスもきっとあるでしょう。
以前、病気で寝ているシングルマザーの家に何度か訪問したことがあります。彼女には、小学1年生と3年生の子供がいます。
母親からの相談は「子供たちでは料理がどうしても難しいので手伝って欲しい」という内容でしたが、ベッドで横になっていても辛そうな具合だったので、「他に何か手伝いましょうか」と聞きました。しかし、「他のことは子供たちがしてくれるから」という返事でした。
実際、ランドセルを背負った子供たちは帰宅すると、用意された料理を温めたり、洗濯ものを取り込んだりと、2人手分けして家事をしていました。
母親は内臓の病気で顔色は非常に悪く、介護している子供たちの精神的な不安や成長への影響が見て取れました。、毎回訪問後は何とも複雑な心境になったことを覚えています。
3人暮らし、母親と兄を介護する18歳
親と兄の両方の介護をしている18歳の男の子と、今後しなくてはならないことを相談したことがありました。父親がすでに亡くなっていて、18歳の男の子と母親と兄との3人暮らしでした。
母親はもともと知的障害がある上に認知症にもなっていて、兄は重度の知的障害だったため、その18歳の男の子が介護をしていたのです。
認知症のために母親はもう料理が作れず、知的障害の兄の方は栄養失調と脱水を繰り返すようになっていました。
さらに経済的な問題もあり、父親が亡くなって10年くらい経つのに、遺産整理がまったくできていなかったのです。
この18歳の男の子がしなくてはならなかった介護は、母親と兄が毎食ご飯を食べられるように、ヘルパーの費用を用意すること。つまり、男の子自身が働いて家族の生活費を稼ぐこと。
そして、母親の身元引受人として入所施設と契約すること、父親の遺産整理の手続きをすることなど、経済面での負担が多大でした。
そのため行政や関係機関が連携して母親が施設に入れるように支援し、兄の方には調理のヘルパーを障害者支援でつけるなどしてバックアップを行いました。
おかげでその男の子は自宅での介護が軽減し、仕事に専念できるようになったのです。
介護は子供のお手伝い?
ヤングケアラーの介護内容は明らかに”お手伝い”という域を超えてしまっています。ヤングケアラーは18歳未満なので、当然ながら学校教育を受けている年齢です。
本当なら通学や勉強、友達、クラブ活動の他に、自分の将来に向けた大切な子供時代を過ごす年代なのです。
しかしヤングケアラーはその忙しい中、子供らしい活動の時間を割いたりつぶしたりして介護をしています。
急に具合が悪くなる祖父母などを置いていけずに学校を休んだり、授業に遅れたり、学業に専念できずに成績が下がってしまうことも起きています。
大切な友達との交流も介護のために断っていると、友達との関係も築けなくなってしまいます。
こういったことは、子供たちの教育を受ける権利を侵害し、人格形成にも影響を及ぼすかもしれないと言われています。
お手伝いは、家族の愛情に関係した行為なので、過度になっていることに大人もつい甘えて気が付かなくなっていることもあるでしょう。生活費を稼ぐ親世代が仕事を辞めてしまうと生活が困難になるとはいえ、本来大人が果たすべき役割の大半を子供に担ってもらうのは、”お手伝い”とは言えないのです。
まとめ
ヤングケアラーの嘆きを、最近はインターネットでたびたび目にするようになっています。友達が離れた、合宿や修学旅行に行けない、という学生時代の辛い体験だけでなく、その後の就職や結婚にまで影響が出ているようです。
ヤングケアラーの介護負担は、高齢化が進む社会で経済的な理由でも深刻化する可能性があり、子供たちの将来のためには福祉だけでなく、経済の問題としても取り組む必要があるのではないでしょうか。