近年、高齢者が増加するにつれて、老老介護をする夫婦の割合も高くなってきました。老老介護とは高齢者が高齢者を介護するものなので、どちらかがある程度元気であることが前提です。
しかし、ときには夫婦どちらにも介護が必要になってしまうケースがあります。それが思いがけない問題を引き起こすことも。
ここでは、夫のテレビ視聴の音量が、妻の健康に悪影響を及ぼしたケースを紹介しましょう。
高血圧の妻にはテレビの騒音が大問題
夫:和雄さん(仮名)89歳
要介護2。聴覚と認知機能の短期記憶に問題がある。
妻:和子さん(仮名)87歳
要介護1。パーキンソン病と高血圧の問題を抱えている。
長女・次女
長女も次女も独立して別居。毎週どちらかが実家に泊まり込んで介護にあたっている。両親は週末にショートステイを利用しているので、介護は基本平日のみ。
耳が聞こえにくい89歳の和雄さんは、テレビを視聴するときについついテレビの音量を大きくしてしまいます。この音量がとても大きく、妻の和子さんだけでなく、長女や次女でも心臓がドキドキするような大音量なのです。
実はこの大音量が、高血圧の妻にとっては大問題。和子さんは大音量が非常にはつらく、とたんに血圧が上昇して体調が悪化しまうのです。
騒音と血圧の関係については、論文などでその相関関係が論じられています。若い学生や働き盛りの人でも騒音下に身を置くと血圧が上昇し、肉体的にも心理的にもストレスになります。
そのため、そのたびに長女や次女はテレビの音量が和子さんの体調に影響を及ぼすことを和雄さんに説明して、音量を下げてもらっていました。しかし和雄さんには認知症があるためすぐに忘れてしまい、しばらくするとまたテレビを大音量にしてしまいます。
和子さんの上昇した血圧は、就寝時にも落ちきらないことがあります。血圧を下げる薬を服用するのですが、その後に血圧が下がりすぎて意識が混濁してしまうようなこともありました。テレビの大音量は、和子さんにとって命に関わる大問題だったのです。
手元スピーカーで大音量を防止
和雄さんは、認知症になる前に購入した高価なオーダーメイドの補聴器を所有しています。しかし小型で高機能であるがゆえに操作が難しく、使おうとしません。また、イヤホンのように耳に入れるものも気にいらないようでした。
そこでよい方法がないかと長女がネットで調べてみると、手元のスピーカーでテレビの音を聞く製品があることがわかりました。大手音響メーカーの製品などいくつか種類があるようだったので、家電量販店で実際に試してみることに。そのなかのひとつを選びました。
選択のポイントは、片手に収まることと音量調節のツマミ。ほかの手元スピーカーは使いやすいように音量調節がツマミになっているのですが、これだと和雄さんは最大音量まで回してしまい、結局大音量になってしまいます。
選んだ手元スピーカーの音量調節は円周上の凹みに目立たないように配置されたボタンなので、和雄さんにはわかりにくく、勝手に大音量にしないだろうと判断したのです。
この手元スピーカーをいつも和雄さんがテレビを視聴するソファのそばにおいて、これでテレビの音を聞くようにすすめました。和雄さんは手元スピーカーを耳にあてて、「これならよく聞こえる」と満足そうにしていました。
認知機能の低下でスピーカーがわからない
これでテレビの大音量問題が解決すればよかったのですが、実はそうはいきませんでした。和雄さんはしばらくはスピーカーを耳にあててテレビの音を聞いていましたが、そのうち「これは何だ」と言いだしたのです。
自分が持っているものが、テレビの音を聞くための道具であることを忘れてしまったようで、次の日にはまたテレビの音量を上げてしまいます。
結局、和雄さんがテレビの音量を上げるたびに、娘たちは手元スピーカーでテレビの音を聞くように説得します。話せばそのときは納得してくれますが、和雄さんが手元スピーカーを覚えてくれるまで、気長に説得をつづけなければなりません。
以前よりは騒音の頻度が低くなったものの、和子さんはそのたびに不安な思いをしています。まだこの問題は解決しておらず、何か方法はないかと手探りしている状態だそうです。
まとめ
「要介護」といっても、心身の状態は人それぞれで異なります。ときには相互に悪影響を及ぼすこともあるため、対策が必要なこともあるでしょう。
夫婦だからといって、どちらかが我慢するような状況はよい結果を招きません。介護が必要な人それぞれの状態に応じて、どちらにも問題が少なくなるような答えを探すことが大切です。