まだまだ在宅で、と思っていたものの、E・Aさんの義母の衰えは思いのほか激しく、70代に入ると急激に身体が動かなくなってきました。
ケアマネジャーさんのすすめもあって、ついに特別養護老人ホームへ入居することになります。しかし、1年足らずで終末期を迎えることに……。
最終回は、胃ろうの増設をした義母の様子をお伝えします。
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
特別養護老人ホームの開所とともに入居できた
「特別養護老人ホーム(特養)はなかなか入れない」というのはあちこちから聞いていました。
義母のために申し込んだ3つの特養も、どこも100人以上も希望者がいて、「いつになることやら」と思いながら待つしかありませんでした。
しかし義母の状態を考えると、特養以外にふさわしい老人ホームもあまりないですし、認知症もないのでグループホームに入居することもできません。
それに、義母の遺族年金を考えてみても、月に数十万円する有料老人ホームは夢のまた夢でした。
しかし幸運なことに、職場のつてで、新しく近くに特養が開設されるという情報をいち早くキャッチ。早い段階で申し込みをすることができました。
申込用紙に、義母や家族の状況を詳しく記し、入居を強く希望していることを訴えました。
それが功を奏したのかどうかはわかりませんが、開所とともに入居できることが決まったのです。とてもラッキーでした。
開所間もないと、まだ入居者が少ないため、入居者1人あたりの介護職の人数が多いのです。手厚くしてもらえますし、義母が特養に慣れるためにはとてもいいと思いました。
リビングでは指編みでマフラーを作る講習をしてくれて、器用な義母はとても喜び、出来栄えのいいマフラーを作って、みんなにほめられていました。
飲み込む力はますます衰えていたので、食事の介助が大変だったと思いますが、口から食べさせてくれ、義母も努力してしっかり食べました。
転機が訪れたのは、痔になったことでした。
出血が多かったので、病院へ入院。便をある程度少なくするためにと、点滴から栄養をとることが多くなり、そのうち口から食べられなくなってしまいました。
このままでは、命が危ない――。
胃ろうにすべきかどうか、家族みんなで悩みました。義母が80代なら、「自然に任せましょう」となったと思います。でも、この時点で71歳。まだまだ若いのです。
「もう少し生きてほしい」と、夫も私も願いました。本人も生きたい思いが強かった。
入居していた特養も、胃ろうで戻って来ても受け入れることができると言ってくれました。
そして、胃ろうを造設して退院し、特養に戻りました。
これでしばらくは元気でいてくれるだろうと思っていました。
義母も顔見知りの介護職の方々に「おかえりなさい!」と迎えられ、うれしそうでした。
ある晩突然、心肺停止に……
しかし、死は本当に突然やってきました。
それから2カ月、ある明け方に特養から連絡があり、「心肺停止しています」と。
前の晩は、職員の話しかけにもうなずき、静かに眠りについたようです。特に痛いところもなく、苦しいこともなく、すっと眠ったのに、明け方見回りに行ったら息がなかったというのです。
入居してまだ1年もたっていない秋のことでした。
病院に救急搬送したそうですが、術もなく、静かに病院で看取ってもらいました。
突然の死に、茫然としてしまいました。涙を流すことも忘れて、ただ立ち尽くすだけ。しばらくは、家族のだれもが受け止めきれませんでした。
しかし胃ろうになった頃から、私も夫も子どもたちも、どこかで悟っていました。
近い将来、いつか義母には終わりがくる。まだ若いのだけれど、運命はきっと変わらないのだろうと。
亡くなったあとは、警察が入っていろいろ聞かれました。それがつらかったですが、しかたがないですね。
だれのせいでもない、運命だったとしか言いようがありません。
軽い脳梗塞を起こしてから6年。71歳で命を閉じるまでは、長いようで短かった。
今では、大量にゼラチンを購入し、せっせとゼリー寄せのお茶を作っていたころがなつかしく思えます。私がゼリーをスプーンですくう手元を見て待ち、私が差し出すスプーンを受け入れる。そして小さな微笑を返してくれる。
介護は大変だったけれど、毎日、たくさんの「ありがとう」をもらった気がします。そしてそんな義母に、私からも「ありがとう」を言いたい気持ちでいっぱいになりました。
*写真はイメージです。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
プロフィール
E・Aさん(女性 53歳)医療事務職
結婚後すぐに義父母と同居。義父を亡くして4年目に、義母が軽い脳梗塞となる。その後1年でまた義母が軽い脳梗塞を起こし、徐々に体力が落ちてくる。飲み込みが悪くなり、家で介護食を手作りすること3年。デイケアやショートステイ、そして特別養護老人ホームを利用しながら義母を看取る。義母は71歳で死去。当時、2人の子どもは高校生だった。
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