まだ60代の若さで足元がおぼつかなくなり、要介護2になったE・Aさんの義母。フルタイムで働きながらの在宅介護に、Eさんは悩みます。
筋力が衰えて口がうまく動かず、のどの筋力も落ちて、次第に食べ物を上手く飲み込めなくなりました。窒息のおそれもあり、食事づくりに細心の注意をするようになって……。
今回は、食事づくりに奮闘するEさんの様子をお伝えします。
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
惣菜もお茶さえもゼラチンでとろみをつける
義母は足腰の筋力が衰えるとともに、口の動きが悪くなり、会話もまたどんどん減っていきました。
声が小さくなり、義母の口元に耳を持っていかないと声が聞こえません。それを気にして、ますます義母はしゃべらなくなりました。
そうなると、のどの筋力も衰え、食べ物の飲み込みも悪くなるのです。食べることが楽しみだったのに、肉や海苔巻きなどをのどに詰まらせ、一大事になったこともありました。
やわらかく炊いたご飯と魚、野菜の煮物であれば大丈夫な時期もありましたが、それもやがて難しくなって。
おかずを細かく刻んでも飲み込みにくくなった時点で、ケアマネジャーさんやリハビリスタッフに、「このままでは危険です。とろみをつけて飲み込みやすくしてください」と言われるようになりました。
それからが大変で、家族の食事とは別に、ゼラチンでゆるくかためた自家製ソフト食を作るようになりました。市販品もありましたが、毎食だと高くつくので、できるものは自分で調理していました。
魚や根菜などは一度煮てから骨などを丹念に取り除いて、ハンドミキサーで食べやすい状態にしてからゼラチンでかためます。
ごはんも、かなりやわらかくしたおかゆにする必要がありました。
これらは、朝は私が義母に食べさせます。そのまま自分で食べるとむせてしまうので、喉の奥に危険のないように置いて、飲み込みやすい状態にして食べてもらうのです。
昼時には必ずヘルパーさんに来てもらい、食事の介助をしてもらうようにしました。義母には、ひとりで食べないでヘルパーさんと食べてね、と納得してもらいました。
お茶でもむせるので、ゼラチンでかためたお茶の抽出液を、食べる感覚で飲み込み、水分をとります。これを作るのが日課でした。
大きなタッパーに3日分ぐらい作っておいて、小分けにする。義母のテーブルの上に、昼間必要な分だけ置いておくと、すこしゆるんで食べやすくなる。
私がいないときは、義母に必要な分だけすくって食べてもらいます。
実際、作るのも大変ですが、ゼラチン代もばかにならない。
困っていると、勤めているクリニックの院長の奥さんが、「うちの業者さんから安く買えるわよ」と教えてくださり、業務用のゼラチンを安く買うことができたのでとても助かりました。
冷凍のソフト食やレトルトは値段が高いということもありますが、ずっと食事を手作りしてきた義母に、「自分でパッケージをあけて食べて」と言うのもはばかられます。
昼間、自分が義母のそばにいないことへの償いも含めて、食事づくりには時間を割きました。
食事介助の時間が、義母との会話の時間に
義母はとても素直な人で、そんな私の気持ちも真正面から受け止めてくれました。
「いつもありがとう」の言葉も忘れない人。だから、3年間、ゼラチン食を頑張って作ることができたのだと思います。
朝食や夕食のときは、義母とのよいコミュニケーションの時間になりました。
口数が少ないので、私がひたすら質問をします。
「今日のヘルパーさんはどうだった? 優しい人がきましたか?」
「トイレなどで困ることはなかった?」
「お昼ごはんのお魚はちょっと味が濃かったかしら?」
「大丈夫」「困らないよ」「おいしかった」
短い言葉しか返ってきませんが、その言葉には、感謝の気持ちが込もっているのを感じました。
また、義母の状態が悪くなってくるにつれ、夫もよく世話をしてくれるようになりました。義母が朝、ポータブルトイレにすわるのを見守り、着替えのサポートもしてくれます。
自立支援のため自分でできるだけやってもらおうとすると、見ている時間が長く、朝食の準備や家族へのお弁当作りなど、家事をする時間がなくなってイライラしてしまうのですが、夫がそこを担ってくれたので、朝、十分に家事ができます。
義母に朝食を食べさせるのも余裕をもってできる。ありがたかったですね。
その頃には、日中もほとんどベッドまわりから動かなくなり、デイケアでの移動も車椅子になっていました。
夜はやむなくオムツにしました。
それでも、まだ在宅で大丈夫なんじゃないかと思っていました。
けれど、家族もヘルパーさんもいない時間にベッドから落ちたり、お茶のゼリーをひっくり返すようなことも増えてきて、ケアマネジャーさんに「そろそろ限界かもしれませんね」と促されて……。
夫と相談をし、特別養護老人ホームへの入居を考えることにしました。
希望者が多く順番待ちだったので、何カ所かに入居の希望を申請しながら、入居のタイミングを待ちました。
次回は、特別養護老人ホームに入居してからの義母の様子をお伝えします。
*写真はイメージです。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
プロフィール
E・Aさん(女性 53歳)医療事務職
結婚後すぐに義父母と同居。義父を亡くして4年目に、義母が軽い脳梗塞となる。その後1年でまた義母が軽い脳梗塞を起こし、徐々に体力が落ちてくる。飲み込みが悪くなり、家で介護食を手作りすること3年。デイケアやショートステイ、そして特別養護老人ホームを利用しながら義母を看取る。義母は71歳で死去。当時、2人の子どもは高校生だった。
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