■書名:母の日記
■著者:秋川リサ
■発行:NOVA出版
■出版年:2014年7月
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介護している母に「娘なんて産まなければよかった」と……

写真は特養に入居していたころ。お母様といっしょに
認知症になった母親は出かけた先で迷子になったり、通販の無駄買いや無銭飲食をしたり。思いもかけない行動に、秋川さんは戸惑う。夜になるまで母親を探し、近所に頭を下げて無銭飲食したお金を払いに行く。いつもいつも、心を砕き、対処してきた。しかし、そんなふうに懸命に世話をしている娘のことを、母親は日記に書いていた。「娘なんて産まなければよかった。一人で生きている方がよっぽどよかった」……。どれほどショックだったろうか。
本書では、モデル・タレントの秋川リサさんが、実母を介護した日々をつづっている。そのリアルさに、まず驚く。母親の周辺症状の生々しさ、秋川さんの戸惑いや小さな憎しみを包み隠さず書いているのだ。冒頭の日記の内容やそのときの思いも、隠さない。その潔さゆえに、のめり込んで読んでしまう。中でも印象的だったのは、どうにも母親が家で暮らせなくなったとき、最初に見学に行った老人ホームでのエピソードだ。受け入れてくれさえすればいい、と思って行ったけれど、水回りの汚さ、寝室の狭さ、施設長の言葉の配慮のなさにひるむ。帰り道、秋川さんは涙が止まらない。「こんなところに母を入れたくない!」。

秋川さん親子。左は娘の麻里也さん
困っても怒っても、介護する人はこんなふうに相手を思って悩み、自分を責めて苦しむ。実際に介護をしている読者なら、思わずもらい泣きしてしまいそうだ。
老人ホーム選びをするときには、利用料金のことも、率直に語る。「家にはお金がそんなにない。だから、高級なホームに入れることはできない。なんとか折り合うところを探さなきゃ」。いくつもの老人ホームを見学し、「ここにしよう」と判断するときも、妥協しながらもチェックポイントをはずさないのがさすがだ。雰囲気が明るい、職員さんがコロコロ変わらないところがいい、などなど、選び方のコツがちりばめられている。
飾らず自分らしく介護に向き合う秋川さんのその姿勢や言葉は、とても参考になり、励みになる。きれいごとでない分、素直に聞けるのだ。具体的なノウハウを授けてくれることもありがたい。まだ介護を始めていない人たちも、現在進行中の人も、ぜひ読んでもらいたい一冊である。
○●○ 著者ミニインタビュー ○●○
若くても介護はできます!
周囲の人たちが、支えてくれるから
母は本当に個性的で奔放な人です。78歳で恋愛をして、同棲するために家を出るような人ですからね。3年半ほどして戻って来たのですが、さらりと戻ってくるあたりもすごいですよね。いくつになっても「女」だということを意識して生きていた人でした。
認知症になったのは、家に戻ってきた直後。「通帳がない!」と慌てるところから始まり、物忘れや徘徊が頻繁になりました。デイサービスに行かずに町に出てしまったり、老人ホームから脱走することもありました。町中、よく探したものです。
でも、娘がすごくがんばってくれた。20歳を過ぎて大人にもなっていたし、おおらかで優しいところのある子なんです。母にとっては、私よりも孫の言うことのほうが効き目があるようで、ショートステイや老人ホームへの入居も、娘がうまく交渉してくれました。ひとりで介護をするのではなく、娘といっしょにできたことが、ありがたかったですね。
本を出版してから、介護業界の方々と話す機会が増え、介護の仕事をやってみたいな、と思うようになりました。ちょうどその頃、ある事業者さんと知り合いになり、「うちで働いてみませんか?」と言われたのが縁で、今、週2~3回、住宅型有料老人ホームで働いています。少しでもみなさんのお役に立てるといいな、と思っています。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
著者プロフィール
秋川 リサ(あきかわ・りさ)さん
モデル、タレント、ビーズ作家。1952年、東京都生まれ。68年に資生堂のサマーキャンペーンのCMでモデルデビュー。テイジンの専属モデル、雑誌『anan』の表紙、数々のCMなどでトップモデルとして活躍。以後、テレビドラマ、バラエティ、映画などタレントとしても活動。2001年にビーズアート教室を開設し、全国各地でビーズ刺繍の普及をする。著書に『秋川リサの子育てはいつだって現在進行形』(鎌倉書房)、『秋川リサのビーズワーク』(日本ヴォーグ社)、そして母親の介護をつづった『母の日記』(NOVA出版)など。
*秋川リサさんに「お母様の介護の様子や、実際の老人ホーム選び」について伺ったロングインタビューを、こちらに掲載しています。