父母、妹家族、自分たちの家族と3世帯同居をしていたW・Uさん。病気がちな父母は次々に大病をし、病院と自宅を何度も行き来するようになります。Wさんも妹も仕事を持ちながら、自宅での介護をどう続けてきたのか――。4回にわたってお伝えします。
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
母がお腹を押さえて「痛い!痛い!」と叫び出した
うちは父も母も、病気がちでした。父は30歳のときに重い腎臓病になり、以後、高血圧や糖尿病も抱えていました。同い年の母は血管が弱く、動脈瘤をはじめ、大きな血管の病気を何度もしてきました。それでも気丈にふたりで暮らしていましたが、 70代後半になると、ふたりともが体力を失い、7年前に私の家族や妹家族と3世帯同居をすることになりました。
といいますか、そもそも、妹家族が「いつか両親と2世帯同居をする」と決めて住んでいた家に、両親はもちろん、私たち家族も同居させてもらった、というのが正しいのです。その家は3階建てで、2・3階を妹夫婦と3人の子どもがすでに使っていて、1階を父母のために、あけてありました。その1階に夫と離婚した私と2人の子どもたちが先に住んでしまい、そこにあとから両親がやってきた、という感じです。
だから、1階の3部屋とリビングに、私たち3人と両親が同居する形になりました。当時、長女は中学1年。息子は10歳で小学4年 でしたが、発達障害があり、ふつうの子より手がかかるのです。私はデイサービスで働いていましたので、両親は私の代わりになにかと息子の世話をしてくれました。息子も、両親といっしょなら落ち着いて過ごせました。
息子が小学6年になったある日、母たちの部屋でおやつを食べているときに、それは起こりました。母が突然、わめくように「痛い!痛い!痛い!」とお腹を押さえ、冷や汗を流しながら苦しみ始めたのです。その様子は尋常でなく、息子は大泣き。父は「もしかしたらまた……」と真っ青になり、あわてて救急車を呼びました。
病院に着くと、病名はやはり大動脈解離。血管壁が割ける病気です。突然死もあり得る深刻な病気で、緊急手術が必要になる場合が多いのです。
母はその3年前にも同じ病気で緊急入院し、開腹手術を2度もして、血管壁の処置をし、人工血管を入れていました。今回はその人工血管の下の部分が割けてしまった。前回のように手術をしようにも場所的に難しく、亀裂が閉じるまで入院することになりました。
当初は母の看病より父の世話が大変だった
うちは両親の仲がよく、父は母の看病には献身的でしたが、何しろ父はまったく家事ができません。病院に通ったり、医師の話を妹や父と聞きに行ったりするのは、当然のことだから苦になりませんでしたが、父の食事の世話が大変でした。3食とも決まった時間に食べないと気が済まない人で、その時間に合わせて料理をするのは、仕事を持ちながらではとても大変。更に、発達障害の息子と付き合いながらの調理なので、ヘトヘトでした。昼用には弁当を作って置いておきました。
両親と同じフロアに住んで接点の多かった私が、掃除や洗濯も担いましたが、妹も協力してくれました。妹は夫の仕事を手伝っているので、働いていても時間の自由がききます。それで、父の様子を見に帰ったり、病院に必要なものを運んだりと、きめ細かくフォローしてくれました。
母はようやく退院となっても、体調は万全ではありません。動脈瘤もあちこちにあり、またいつ緊急入院になるのかわからない。心臓が悪いから、息苦しくて寝込んでしまうこともあります。それでも、「できるだけ人の世話にはなりたくない」という性格なので、フーフー言いながら、父の夕食の世話や掃除などをこなしていました。
私も家事を手伝いましたが、「自分でやる」という母に押され、掃除や洗濯を自分たちのついでにしてあげることぐらいしか、なかなかできませんでした。
しかし、その事態も急変します。胸を抑えて「苦しい。いつもの息苦しさとも違う、助けて…」と言う母を救急車で病院に連れて行くと、肺がんだということがわかったのです。
次回は、母親の最期についてお伝えします。
*写真はイメージです。
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プロフィール
W・Uさん(女性 52歳)福祉施設職員
京都府在住。47歳のときに3世帯同居の母が血管の病気で生死の際をさまよい、入退院を繰り返した2年後に他界。その1年半後には父親のガンがみつかり、通院治療が続く。家族だけの介護の限界を感じ、ヘルパーを頼む直前に父親も他界。4年半の間に2人の壮絶な自宅介護を続けることに。夫とは離婚し、大学1年の長女、発達障害を持つ高1の長男の3人暮らしだが、一軒家の階上に妹夫婦と3人の子どもが暮らしている。
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