週末ごとに祖母と過ごす時間を持つことで、主介護者の母を助け、祖母にも頼りにされるようになったU・Tさん。多忙であっても、介護の一端を担うことの手ごたえやうれしさを感じていました。このままの時間が長く続いてほしい――。しかし、そうはいきませんでした。今回は、Uさんの祖母に襲い掛かるアクシデントをお伝えします。
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
「そろそろ家で暮らすのは難しいわね」
再び祖母と散歩をするようになってから、祖母は明るくなってきました。でも、悲しいことに、体力はゆるやかに落ちていきます。ますます足の運びが遅くなり、長い距離を歩けなくなりました。物忘れも、前よりも増えてきて。僕は困ることはありませんでしたが、日々、祖母を支えている母や母の姉は、危機を実感していました。
担当のケアマネジャーさんにも強く勧められ、祖母にいずれは老人ホームで暮らしてもらうことを、母も母の姉も考えるようになりました。しかし、心配なのです。祖母はデイサービスは嫌いではないですが、デイサービスに行った後は、人と接することで疲れるらしく、バタンと眠ってしまうことが多い。気を遣っているのでしょう。そんな祖母が、24時間365日、他人と一緒に暮らせるのだろうか……?
そこで、ショートステイをまず体験してもらうことにしました。家の外で泊まる練習をする、という感じでしょうか。
祖母は、その目的も、わかっていたようでした。「そろそろ家で暮らすのは難しいわね」とつぶやき、自分で荷物をまとめていました。2年前のことでした。
ところが、はじめてのショートステイ宿泊の2日目に連絡がありました。「ちょっと食事を飲み込むときに喉をつまらせてしまって。今はお元気ですが、念のため、病院に行きます」
誤嚥性肺炎を起こしていた
その日はたまたま友達と会っていました。母から聞いた限りでもたいしたことはなさそうだったので、翌日病院に行ったのです。しかし、祖母はぐったりしていました。そのまま入院すると、病院で高熱が何度も出ました。91歳、高熱に耐えられるような年齢ではありません。
風邪? そうではなく、誤嚥性肺炎でした。少し前から飲み込みが悪くなっていたのですが、ショートステイ先で慣れないものを食べて、うまく飲み込めなかったのかもしれません。
悔やんだのは母や母の姉でした。「私たちがショートステイなんかに連れて行ったから……」。でも、そうではない、家の食事でも、もしかしたら誤嚥性肺炎を起こすかもしれない。たまたま、この日に起こっただけだと、母たちを慰めました。自分だって、ちゃんと駆けつけなかった。それを悔やんでいました。
肺炎はいったん、おさまりました。けれど、祖母の元気は戻ってきませんでした。退院を促されたものの、自宅に戻るのは難しいだろうということになり、その病院に探してもらって、療養型の病院に転院することになりました。
次々に迫る展開に、僕は動揺するばかりでした。「90歳を過ぎているのに元気なおばあちゃん」という僕の中のイメージが、どんどん覆されるようで、気持ちがついていけない。でも、いつか、人は死に向かっていく――。そんな現実を突き付けられたようでした。
次回は、寝たきり状態になってしまった祖母への思いを語っていただきます。
*写真はイメージです。
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プロフィール
U・Tさん(男性 27歳)IT技術者
東京都在住。約3年間にわたり祖母の介護を続けている。祖母は80代後半まで元気で、デイサービスを週2回利用する程度だったが、少しずつ衰え、2年前に老人ホームへの入居を考える。その前に宿泊を体験しておこうと、ショートステイを利用したところ、そこで誤嚥性肺炎を起こして救急搬送。以後、病院暮らし。現在も、療養病院に入院している。Uさんは療養病院が家から近いこともあり、忙しい仕事の合間をぬって、93歳の祖母の見舞いと世話に毎週通っている。
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