温厚な義母、手厚く介護を担いながら、嫁であるR・Oさんを立ててくれる義理の姉3人、そして母思いの末子である夫。全員が介護を担うことで、ひとりひとりの負担が減り、気持ちが通う介護ができているRさん。しかし、自分の実家の父母の介護は、思うようにはいきません。Rさんの悩みは、むしろ実家の介護にありました。
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なぜ弟に頼らず、嫁ぎ先の介護に忙しい私に?
義母が大腿骨骨折ではじめて倒れてから7年の月日が経った、2年前。実家の母が、コンタクトをとるようになりました。それまでも、「病院に付き添って、医師の話を一緒に聞いてほしい」と要望され、嫁ぎ先の介護の合間を縫って、手伝っていたつもりです。
しかし、そんな中で、母はほかの妹弟に状況を知らせるでもありません。特に弟には「最後の最後になったら連絡する」と言うのです。
何を言っているんだろう、と驚きました。私が嫁ぎ先の介護をしていることは知っているのに。それに、私は長女ですが、弟と妹もいるのです。私たちは関西なので、関東にいる妹に介護を頼むのはなかなか難しい。ですが、「なぜ、長男の弟を頼らないの?」と疑問です。すると、こんな答えでした。「息子とお嫁さんは働いているから、面倒はみられないでしょう。あなたは働いていないから」。
私が働いていないわけを理解してもらえていないと、悲しくなりました。
介護というのは、「親だから手厚くできる」というものではないと思います。介護そのものは大変な仕事です。自由を奪われるし、いつ終わるかもわからない。体力も気力も奪われます。これまで義母にしていただいたことのありがたさを思い出します。また、義姉たちの私を立ててくれる心遣いや、実際に介護を担ってくれる責任感が、私の心をやわらげます。「最後までおかあさんのことをみんなで見届けよう」と思えるのは、こうした介護の環境が整っているからだと思います。
これまでの嫁ぎ先の親とのよい関係性が、「親を介護したい」という気持ちを押し上げるのだと思います。しかし、実家の母と私との関係は、そうよいものではありませんでした。小さい頃からしっかりすることを要求され、私は両親にあまり甘えることができませんでした。
20歳を過ぎた頃から、母は「だれでもいいから結婚して!」と言い続けてきて、それが私の負担でした。30歳近くになって、やっと母の願いを叶えてあげられた、そんな思いで結婚したのです。長男に嫁ぎ、介護中の私に、今さら「自分たちの介護を」と言われても……。
それでも、弱っている父母を放ってはおけず、嫁ぎ先の介護の合間に、実家にも訪れていました。しかし、介護の大変さを理解しない母の態度に疲れが増して、とうとう実家に足を向けることができなくなってしまいました。
「私のことばかりでなく、実家にも行ってらっしゃい」と送り出してくれる義母にも、思わずグチを言ってしまうほどです。義母は黙ってニコニコと笑い、「お母さんは強いねぇ。でも、あなたはあなたで、いいんじゃない?」と。こんな人が実母だったら、私だってもっと親身になれたのに――。しかし、そんなふうに思う自分に対しても、腹が立ちました。なんで私は実家のことをこんなにやりたくないんだろう。こんなことでいいのか……。
介護者の会に出向いて、心情を吐露してラクに
悩みが深くなるほど、心が重くなってきました。このままでは気持ちが落ち込むだけだと思い、介護者の会をみつけて、出向くようにしました。そこには、さまざまな形で、介護に悩む人たちがいて、私のようにみなさん、自分を責めたり、悩んだりしていました。
介護者の会で自分の気持ちを正直に話すと、心が落ち着きました。共感してくれる人がいることは、救いでした。月1回の会には、いまだにずっと出席し、そのときどきの介護の悩みや、親に対する思いなどを吐き出しています。この会がなかったら、私は実家の介護のことで、精神的に参ってしまっていたかもしれません。
実は、1年ほど前から、実家とは連絡をとっていません。両親は来てほしい、連絡がほしいと思っているでしょうけれど、実家のことを考えると、苦しくなってしまって。まだとても行く態勢になっていません。
いつの間にか要介護5になっている義母。それでも、義母の介護のほうが、私にとってはずっとラクなのです。
最終回の次回は、Rさんの今後の介護についてお伝えします。
*写真はイメージです。
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プロフィール
R・Oさん(女性 51歳)主婦
大阪府在住。二世帯同居をしていた義父を見送った後、義母は自立して生活していたが、9年後に左大腿骨骨折、4年後には右大腿骨骨折して要介護4に。さらに腰や上腕も骨折して現在要介護5。夫婦のほか、3人の義理の姉が介護を担い、4人で協力し合いながら介護を続けている。周囲からは「理想の在宅介護」と言われる。実家の父母も弱って来ていて、今後は両立が課題に。
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