夫がレビー小体型認知症になり、通算15年の認知症の時期を介護した妻のI・Rさん。しかし、Iさんの介護体験は夫だけではありませんでした。なぜか夫の家族には病気になる人が多く、その介護はIさんひとりに委ねられます。その経験から培われた介護に対する考え方や家族感を、今回はお伝えします。
*この体験談の1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
夫の姉や父親の介護も担っていた
私が介護したのは、夫だけではありませんでした。結婚してからは、何かと夫の家族の世話を頼まれました。
夫は5人兄弟の真ん中。上に姉ふたりがいて、妹がふたりです。今思えば、夫の家系は、神経科の病気の人が多いのですね。一番上と二番目の姉はふたりとも、精神障害がありました。このふたりは就職できなかったので、結婚後数年、私が体を壊すまでは、私が働いて、夫の姉たちのために仕送りをしていたんです。上の姉は気持ちが不安定で、家族に頼りたがるので、私がよく受け止めていました。しょっちゅう電話がかかってきますが、しかたないな、と思って対応していました。
92歳まで存命だった義父の介護も担いました。そして、義父を見送ってほっとしたわずか2年後に、夫が発病――。さらに、自分の父の介護。そして父が、母と死別後に再婚した相手、つまり2番目の母の介護も、私が担ってきました。
私はどちらかというと、もともと辛抱強く責任感も強いほうです。夫の家族や夫の世話をするとなると、途中で手を抜くことができません。長年の間に、体力をかなり消耗しました。それでもなんとかやっていけたのは、介護経験が豊富で、「ジタバタしてもしかたがない」と腹をくくれたからかもしれません。夫もわがままな患者でしたが、「毎日をやり過ごすしかない」と割り切りました。
助けてくれるのは、家族より「身近な他人」
そんな中で、まず助けてくれたのは、「身近な他人」でした。私たちは分譲マンションに住んでいましたが、どうせ迷惑をかけると思ったので、同じ階段を使っている9世帯にすべて、夫の病状を話しておきました。みなさん、いやがるどころか、とても同情してくれて。かといって踏み込みすぎず、距離をはかりながら、見守ってくれました。
玄関のノブにさりげなく、「多めに作ってしまったからどうぞ」と夕食のお惣菜がかけてあったり、お菓子を頂いたりすることが多く、心の支えでした。
夫が大きなけいれんを起こして救急搬送されたときも、帰ってみたら失禁していたベッドのシーツははがされてきれいに洗濯してあり、ベッドまわりも整っていました。友人がさりげなくやってくれたのですね。涙が出るほどうれしかったです。
認知症の家族会の人たちとも知り合い、話を聞いてもらいました。レビー小体型認知症の例はあまり多くなかったですが、認知症の家族を持つ辛さを共有しているので、親身になってもらえ、ありがたかったです。
そして近所の友人、病院の相談員さん。私が必死で頑張っている姿を見て、みなさん応援してくれました。私の弟たちにもサポートしてもらっていました。彼らも仕事がありますし、平日はなかなか力を借りられない。それでもサポートしてくれたのが、2番目の弟の連れ合いでした。子どももいなくて、ひとりで奮闘している私を、週末に食事に誘ってねぎらってくれたり。こうした助けがなければ、私はきっと乗り切っていけなかったと思います。
とはいえ、現実の忙しさは変わることがありませんでした。その後も夫は高熱が出て下がらない、けいれんを起こす、そして誤嚥性肺炎、の繰り返し。ほっとする間もなく、病院と特養を頻繁に行ったり来たりしていたのです。
こんな状態がいつまで続くのだろうか。体力がどんどん落ちる中、私も不安でいっぱいになりました。病院は治療費が安かったのですが、夫の厚生年金の額が高かったせいか、特養の利用料は高く、月に18万円もしました。毎月、家計簿とにらめっこしてため息をつきます。この状態では、私が使えるお金は計算上、5000円しかありません。しかたなく貯金を切り崩してしのいでいました。
最終回、レビー小体型認知症の夫がいよいよ終末期を迎えます。
*写真はイメージです。
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プロフィール
I・Rさん(女性 72 歳)
東京都在住。お見合いで結婚、専業主婦として過ごす。夫が63歳の頃、突然字が書けなくなり、左右の見当もつかず、歩き始めたら止まらなくなる。レビー小体型認知症だと診断される。この頃、妻のI・Rさんは57歳だった。以後、献身的に介護をし、夫は特養、病院などを行ったり来たり。夫は74歳の時に亡くなる。子どもはなし。
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