■書名:若年性アルツハイマーの母と生きる
■著者:岩佐まり
■発行:KADOKAWA
■出版年:2015年6月
>>『若年性アルツハイマーの母と生きる』の購入はこちら
衝撃!20代で母の同居介護を始める

2004年、母55歳、まりさん20歳。内心では、母のことが不安でたまらなかった成人式
昨年の暮れから春にかけて、かわいらしい若い女性が、若年性アルツハイマーの母親を介護しているドキュメンタリーを、何度かテレビで見た人も多いだろう。不穏で機嫌の悪いお母さんをなだめたり、笑顔で寄り添ったり。そのひたむきな姿に、思わず涙した人も多かったはずだ。『情報7daysニュースキャスター』『サンデージャポン』の映像は、衝撃的だった。
岩佐まりさんのお母さんは、2003年、55歳で物忘れが始まった。翌2004年には、東京で成人式を迎えるまりさんの世話をするために大阪から上京したのだが、式場で母と別れたまりさんは、母親が帰り道を記憶していて、ちゃんと帰れるか、心配でたまらなかったという。次第にもの忘れはひどくなり、料理などの家事ができなくなる。

2013年東京でシングル介護を始めた頃。母65歳、まりさん30歳。要介護3と認定されるが、母娘とも生活が落ち着いてきた
2006年に病院でMCI(アルツハイマー型軽度認知障害)と診断、2008年にはついに、アルツハイマーと診断された。
やがてアルツハイマーの薬もきちんと飲めなくなり、大阪で同居していた父親とのいさかいが絶えなくなったのをきっかけに、まりさんは、お母さんを東京に一時的に呼び寄せる。2009年、まりさんが26歳、お母さんが61歳のときだ。そして、2013年から、本格的に同居介護を開始する。
明るく元気で、いつも自分のことを思ってくれていた母親が、気に入らないと、自分をにらみつけて「バカヤロー!」と言う。ぬいぐるみを投げつけてくる。カッとしてぬいぐるみを投げ返してみたものの、向こうも全力で投げ返してくる。仲良し母子だったのに、こんなふうになるなんて……。苦しくて切なくて、自分の思いを吐き出さずにはいられなくて、介護ブログを始めたという。やがてこの介護ブログが大きな共感を呼び、今回の出版にも結びついた。
ブログは、日々の小さなエピソードの紹介や、リアルな心情吐露が中心。が、著書のほうは10年あまりの間に、お母さんの病状がどのように進んだかがていねいに語られている。時系列で母子の思いを汲み取れるのだ。

まりさんのブログ「若年性アルツハイマーの母と生きる」。主な読者は、同じように介護をする家族
2003年から、一時同居をした2009年頃までは、変わっていくお母さんに対する、不安や悲しみが綴られている。しかし、病状が進むにつれ、まりさんは腹を据え、まるごとお母さんを受け止めていく。まるで、まりさんのほうが親のように、お母さんを大きな愛で包み、慈しむのだ。その心の美しさに、読む者は、深く感動し、心を震わせる。
お母さんはまりさんに甘えるように、体をや心を預けている。けれど、やはり、母親は母親。まりさんが疲れていたり、気持ちが沈んでいたりするときは、すばやく察知して「まりがかわいそう」と涙したりする。そんなお母さんの優しさに、まりさんは勇気をもらって、またお母さんとの暮らしを紡いでいく。
若年性アルツハイマーは過酷な病ではある。しかし、病を得て、お母さんはごまかしのないピュアな心を持つことができ、まりさんは人として大きくはばたくことができた。認知症という病気があったからこそ、親子は深い絆で結ばれたのだと、この1冊が教えてくれる。
○●○ 著者ミニインタビュー ○●○
若くても介護はできます!
周囲の人たちが、支えてくれるから。
ご縁があって、思いがけなく本を出版することになって、本当にうれしく思っています。若年性アルツハイマーという病気は、まだまだポピュラーではありませんよね。どう進んでいくのか、リアルに知ってもらいたい。そして、私の介護のしかたをみて、こんな介護もあるんだな、と知ってもらえたらいいな、という気持ちから出版しました。
介護を仕事にしている人に読んでもらえたら、参考になるかな、と思いましたし、同じように介護をしている人たちの励ましにもなるかな、と。また、まったく介護に関係ない人たちにも、私たちの親子の愛情の持ち方に興味を持ってもらえたらうれしいな、と思っています。
「若いのに、こんな大変な介護をしているなんて」と同情してくれる人も多いですね。たしかに、体力的にも精神的にも、また、経済的にも大変です。仕事をしながら「シングル介護」をしようと思うと、介護保険の枠をオーバーして、自費になってしまうこともあるんですよね。でも、そんなときこそ、周囲の人たちが支えてくださる。デイサービスの介護士さんに、「今月、ちょっと利用が多いから、自費の追加料金が発生しないように、少し自宅で様子をみたら?」なんて早めに教えてもらったり。「若いんだから、介護だけで人生終わっちゃだめだよ。友達と飲みに行ったり、旅行に行ったりする時間も大切にね」と言ってもらったり。私たち親子は、周囲に支えられながら生きているんだなぁと実感します。
これから先、病気が進んだら、母は私のこともわからなくなってしまうかもしれない。それを考えると、少し寂しいですけれど。でも、母が母であることは変わりありません。もし娘だと認識できなくなっても、私がいることで、安心して暮らしていけたらそれでいい、と思っています。私も、自分の人生を大事にして生きていきたい。恋愛もしたいし、結婚もしたいですよ。私が母を包むような大きな愛で、私を包んでくれる男性がいたら、もう、最高ですね(笑)。
*岩佐まりさんの思う「良い老人ホーム」について、こちらのページで詳しくお伝えしています。
著者プロフィール
岩佐まり(いわさ・まり)さん フリーアナウンサー
1983 年、大阪府生まれ。フリーアナウンサー。ケーブルテレビのキャスター&レポーターや、ネットチャンネルの司会などを務める。2003年、55歳の若さで若年性アルツハイマーを患った母を、2009年一時介護、そして2013年から本格的にシングル介護を始める。2009年に、介護の様子や気持ちを綴ったブログ「若年性アルツハイマーの母と生きる」を開始し、介護で苦しむ人をはじめ、これまで介護に縁のなかった人にも感動を与える。2014年以降、数々のテレビ番組でも紹介され、話題になる。